酒井順子さんの文庫新刊が刊行。
2012年に出版された同書に加筆、修正して文庫化された一冊です。

下に見る人
酒井順子著 角川文庫 560円+税
酒井さんの切れ味鋭いエッセイは、そのまま・・・今まで何だか言葉に出来なかったことをナイフでスパっと切っちゃいます。
会社組織では、やれコンプライアンスだ、セクハラだ、パワハラだと喧しい空気が蔓延し、職場で使えるコトバ、ボキャボラリィがどんどん減少していっています。
このままいくと、ホントーに、会社や職場での会話というものがなくなってしまい、無機質なメールやグループウェア、PCのディスプレイ上だけのやり取りになるかもしれません。
「下になりたくない。上であり続けたい。」という欲求によって動くことの何と多いことか。その欲求を満たすには、努力して上に行くことが一番であるわけですが、努力の苦しさにふとため息をついた時、脇で目に付くのは「他人を下に見る」という、甘い誘惑。その欲求に応じる時の快感はまた、癖になるものであり・・・。
「下に見たい」という欲求。それは、日本にとっての大きな病巣でありつつ、同時に小国日本をここまでの経済大国にした原動力の一つのような気もするのです。
同書では、「負け犬論」で一世を風靡した酒井イズムを通奏低音として、「下を見る」とはどういうことなのかを自叙伝の中で解き明かしていきます。
特に、中学生、女子高生、女子大生・・・そして、広告代理店に入社して3年で辞めるまでの、実話(!?)は、捧腹絶倒です。
酒井さんは、大金持ちのお家ではないけれど、お嬢さんであり、深窓の令嬢・・・。
小職の周りにも・・・いました。
アタマはいいのだけれど世間知らず、言葉は超丁寧なのだけど相当程度の裏がある・・・失礼!
ちょっと付き合いづらい・・・です(笑)。
大学に入ったとき、付属高校から上がってきた山の手のお嬢さんやお坊ちゃん(失礼!)とのコミュニケーションに壁というか、違和感があったことを思い出します。ちゃんと社会人になっているんだろうなあ(笑)。
同書では、話題に取り上げることが、ちょっとタブーともいえるネタを堂々とラインナップしています。
エンガチョ
ニックネーム
偏差値
センス
女子高生
地方出身者
男尊女卑
組織
結婚
身長
おばさん
上から目線
ブス
下種(ゲス)・・・
女性総合職と「女の幸せコース」、「負け犬の遠吠え」論、玄人女性と素人女性、従軍看護婦としてのサラリーマンウォッチャー、出世論・・・。
酒井さんの切り口は、残酷なほどの切れ味・・・ブチ切れる人もいるかもしれません(笑)。
しかし、組織というものから離れて久しい今になってみると、思います。出世戦線から早々に離脱していたあの人たちは、実は幸せだったのではないか、と。その手の人は、いつもデスクにいないか、いつもデスクにいるかのどちらかでした。
昨今、素人女と玄人女の境目が、はっきりしなくなってきました。
「なぜ結婚などする気になったのだろう」「よくやるなぁ」と、結婚する友人をびっくりしながら眺めていたものです。今思えば、その感覚こそが敗因でした。
考えてみれば、ごく小さな子供を体育の授業の時に身長順に並べるというのは、非常に残酷な行為です。
昔、ある女性先輩から、「チビ、デブ、ハゲ。この3人の男性がいたら、絶対に揶揄してはいけない人は、チビなのよ。」と、忠告を受けたことがあります。
「デブは痩せられるし、ハゲは隠せる。でも、チビだけはどうしようもないのだから、相手の気持ちを深く傷つけることになるの」と。
電車の中で必要以上に股を広げて座っているのは、そういえば低身長の男性が多い気が。ボディビルに励んでいるのも、低身長の男性が目立つもの。
近年、格差社会に反対するデモが各地で発生していましたが、彼等はその「有能なほど、稼いだほど偉い」という物差しに反発しているのでしょう。一度、「年上ほど偉い」ということにしてみたら、彼等の不満は案外、解消されるのかもしれません。
最近思うのは、
「姑を看取った人というのは、何か神々しい光を放っている」ということなのです。
フェイスブックなどを眺めていても、「多忙ハイによる多忙選民意識」を、しばしば見ることが出来るのでした。
大阪に行くといつも「大阪のおばちゃんになりたい!」と思うのです。
美人はお金についてくる。これは、一定レベルの事実です。と言うより、お金についてくる美人が世の中には確実に存在する。(中略)美女と野獣ならぬ、美女と不細工(それも並々ならぬ)というカップルが世には少なくありません。
女性は、異性の前では決して「ブスが嫌いだ」とは言いません。しかしいざ同性の前、それも自分と同等レベルの容姿を持つ友人の前に出ると、激しいブス差別の言葉を吐くのです。(中略)その手のことを言いがちなのは、容姿ヒエラルキーにおいて、中位に位置する人です。
大きなお世話だと思いつつ、直球ストライクを投げ込んでくる著者には脱帽です。
恐れ入りました・・・。
鋭い切り口のナイフを持つ酒井順子さん。
怖いもの見たさもあり(笑)、一度、居酒屋で飲んでみたい作家の一人です。