萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

水無月七日、躑躅―fragility

2018-06-07 23:59:06 | 創作短篇:日花物語
儚くも強く、
6月7日の誕生花ツツジ


水無月七日、躑躅―fragility

ひとつ、また家が消える。

「行っちゃったなあ…」

しずかな声ゆれる風、木洩陽やわらかな横顔が青い。
おだやかな哀惜ゆれる道、たたずんだ樹影に訊いた。

「さびしい?」
「うん…」

隣こくり頷いて、視線すこしだけ近くなる。
すこし前もっと近かった瞳に見つめて、すこし微笑んだ。

「それでも、ここが好きでしょう?」

ひとつ、ひとつ家が消えてゆく。
それでも離れられない想いに隣が笑った。

「好きだよ、そっちもだろ?」
「うん、」

笑い返して大樹の翳、青い道ゆく車影が遠のく。
トラックはしらすエンジン音もう聞こえない、そうして消えてゆく一軒に君が言った。

「だから最後までいるよ、だから…」

しずかな声ゆれる風、青葉あわく光る。
頬ふれる風ほろ甘く渋く涼ませる、その掌そっと掌つなぐ。

「最後までいるよ、おんなじに、」

同じ、だから今も共に見送る。
こんなふう送る六月の道、朱色しずかに夏が咲く。


躑躅:ツツジ、花言葉「節度、慎み」赤いツツジ「恋の喜び」

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コメント (2)
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