Three winters cold
第85話 春鎮 act.58 another,side story「陽はまた昇る」
どうしてそんなことばかり言うのだろう、あなたはいつも。
“かわいい”
そんなふう自分のこと言うけれど、自分が何か解って言っている?
そんなふう言われるたび思うこと、あなたは解っているだろうか?
そんなふうには、お願い、紛らわさないで?
「…かわいいとかそういうのいまはいいから、」
あなたの言葉に言い返す、また逸らされたくない願いに。
どうか紛らわさないで、そんなふうに誤魔化さないで。
ただ冗談もなく怒りもなく今、本音だけを聴きたい。
「かわいいよ、周太は今も、」
きれいな低い声が微笑む、切長い瞳が笑いかける、いつも通りに。
こんな「いつも」が嬉しかった時もあった、でも今もう違うのに。
―僕のそのままを認めてほしいんだ、今は…僕も同じ、男だって、
自分も男、そんな言葉じゃ無条件に喜べない。
こんなふう認められない、受けとめてもらえない、なぜ?
ただ座りこんだ雪の森、ひそやかな木洩陽の底に赤い唇が微笑んだ。
「…あの女に話したのか周太?ページがない『オペラ座の怪人』のこと、」
ああ、また「あの女」なんだ?
その「話した」なんて質問も。
―美代さんのことも認められないんだ英二は…女の子としてだけじゃなくて、人として…僕のことも、
きれいな笑顔どこか遠くなる、白皙の頬かたどる銀色の木洩陽ゆれてゆく。
今こうして見つめて近い視線、きれいな笑顔、けれど消えてゆく。
「あの本は美代さん何も知らないよ…」
答え声にして、凍えてゆく。
あなたと通じ合えないから。
―簡単に話せることじゃない僕には、でも…それを英二は解っていなくて、
解っていない、僕のこと。
「…知らなくていいんだ、一生ずっと、」
微笑んだ口もと、銀色くゆる。
タメ息まで凍えてしまう森、赤い唇そっと笑った。
「そっか、」
安心した、そんな貌。
それくらい解ってくれない人へ、痛む覚悟に微笑んだ。
「…英二こそ光一には話したでしょ?」
僕のことを責める、それは「している」からでしょう?
「やっぱり周太、俺の本性よく見てるよな、」
赤い唇そっと笑う、安心した貌で。
ばれたって貌して、だったら英二?
「英二…教えて、ほんとうのこと全部、」
どうか誤魔化さないで、もう紛らわさないで。
冗談もなく怒りもなく、ただ本音だけ伝えて?
―光一に話すだけの理由があったから英二は…それも僕は知る権利がある、
自分は知りたい、だって自分の父のことだ。
それを他人にばかり知られたくない、なにより嘘はもうほしくない。
「相談するのに少しな、でも全部じゃない、」
赤い唇すこし笑って応える、その言葉どこまで事実だろう?
「…光一の閲覧権限を使うためだね、警察のデータファイルは盗めたの?」
盗んで、それからどうする?
―どうして英二がひとり抱えこむの?僕のお父さんのことなのに…親戚だとしてもここまでなんて?
どうしてだろういつも、あなたが解らない。
ここまで父に拘る理由どこにあるのだろう?
「周太もデータファイル見たんだ?伊達さんはSATの実権も情報もかなりだもんな、」
赤い唇あざやかに問いかけてくる。
こんな質問するほど「知っている」瞳にありのまま答えた。
「有能で真直ぐだよ…英二にも操れないひと、でしょ?」
もう会ったことあるでしょう?だから訊いてくる。
こうして先回りされること、あなたがされたら何を思う?
「怖い男だよな、あいつ、」
赤い唇きれいに笑いかける、切長い瞳が見つめてくれる。
その眼どんなふうに僕を映しているのだろう?
※校正中
(to be continued)
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harushizume―周太24歳3月下旬
第85話 春鎮 act.58 another,side story「陽はまた昇る」
どうしてそんなことばかり言うのだろう、あなたはいつも。
“かわいい”
そんなふう自分のこと言うけれど、自分が何か解って言っている?
そんなふう言われるたび思うこと、あなたは解っているだろうか?
そんなふうには、お願い、紛らわさないで?
「…かわいいとかそういうのいまはいいから、」
あなたの言葉に言い返す、また逸らされたくない願いに。
どうか紛らわさないで、そんなふうに誤魔化さないで。
ただ冗談もなく怒りもなく今、本音だけを聴きたい。
「かわいいよ、周太は今も、」
きれいな低い声が微笑む、切長い瞳が笑いかける、いつも通りに。
こんな「いつも」が嬉しかった時もあった、でも今もう違うのに。
―僕のそのままを認めてほしいんだ、今は…僕も同じ、男だって、
自分も男、そんな言葉じゃ無条件に喜べない。
こんなふう認められない、受けとめてもらえない、なぜ?
ただ座りこんだ雪の森、ひそやかな木洩陽の底に赤い唇が微笑んだ。
「…あの女に話したのか周太?ページがない『オペラ座の怪人』のこと、」
ああ、また「あの女」なんだ?
その「話した」なんて質問も。
―美代さんのことも認められないんだ英二は…女の子としてだけじゃなくて、人として…僕のことも、
きれいな笑顔どこか遠くなる、白皙の頬かたどる銀色の木洩陽ゆれてゆく。
今こうして見つめて近い視線、きれいな笑顔、けれど消えてゆく。
「あの本は美代さん何も知らないよ…」
答え声にして、凍えてゆく。
あなたと通じ合えないから。
―簡単に話せることじゃない僕には、でも…それを英二は解っていなくて、
解っていない、僕のこと。
「…知らなくていいんだ、一生ずっと、」
微笑んだ口もと、銀色くゆる。
タメ息まで凍えてしまう森、赤い唇そっと笑った。
「そっか、」
安心した、そんな貌。
それくらい解ってくれない人へ、痛む覚悟に微笑んだ。
「…英二こそ光一には話したでしょ?」
僕のことを責める、それは「している」からでしょう?
「やっぱり周太、俺の本性よく見てるよな、」
赤い唇そっと笑う、安心した貌で。
ばれたって貌して、だったら英二?
「英二…教えて、ほんとうのこと全部、」
どうか誤魔化さないで、もう紛らわさないで。
冗談もなく怒りもなく、ただ本音だけ伝えて?
―光一に話すだけの理由があったから英二は…それも僕は知る権利がある、
自分は知りたい、だって自分の父のことだ。
それを他人にばかり知られたくない、なにより嘘はもうほしくない。
「相談するのに少しな、でも全部じゃない、」
赤い唇すこし笑って応える、その言葉どこまで事実だろう?
「…光一の閲覧権限を使うためだね、警察のデータファイルは盗めたの?」
盗んで、それからどうする?
―どうして英二がひとり抱えこむの?僕のお父さんのことなのに…親戚だとしてもここまでなんて?
どうしてだろういつも、あなたが解らない。
ここまで父に拘る理由どこにあるのだろう?
「周太もデータファイル見たんだ?伊達さんはSATの実権も情報もかなりだもんな、」
赤い唇あざやかに問いかけてくる。
こんな質問するほど「知っている」瞳にありのまま答えた。
「有能で真直ぐだよ…英二にも操れないひと、でしょ?」
もう会ったことあるでしょう?だから訊いてくる。
こうして先回りされること、あなたがされたら何を思う?
「怖い男だよな、あいつ、」
赤い唇きれいに笑いかける、切長い瞳が見つめてくれる。
その眼どんなふうに僕を映しているのだろう?
※校正中
(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】
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