萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

白百合、雨薫る

2020-07-17 12:19:00 | 写真:里山点景
白百合、潔いまま匂いたつ 
里山点景:×鉄砲百合テッポウユリ2016.7


テッポウユリが山野ふっと立っていると、凛と清々しい高潔な美人がいるカンジがします、笑
梅雨時こそ洗われる草木はきれいで&山野の花は風も雨も、炎天にも凛と惹かれます、笑
【撮影地:神奈川県2016.7】

緊急事態宣言が解除と言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末、笑
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文月十六日、百日紅―promising

2020-07-17 00:20:00 | 創作短篇:日花物語
君、語り続けて
7月16日誕生花サルスベリ


文月十六日、百日紅―promising

さんじゃく帯やわらかに紅ゆれる、遠い近い、あなたの記憶。

「あっ、雨やんだ!」

紅い三尺帯ゆれて跳びだす、ちいさな下駄からころ響く。
幼い脛あわい日焼け健やかで、愛しくて笑った。

「ほら、気をつけないと転ぶよ?そこ水たまり、」
「へーきっ!はいっ、」

からん、下駄が響いて紅い帯が跳ぶ。
ひるがえる袖いっぱいの元気、そんな庭先で父が笑った。

「いやあ、あの子は本当におまえそっくりだ、」

縁側から父が笑ってくれる、その髪が夕闇に白い。
いつのまに髪ここまで白く?あらためて見つめた。

―私のせいね、お父さんの白髪、

黒い美しい髪だった、父は。
遠い記憶、35年前の今日、夕闇に艶めいた父の髪。
けれど今は銀色あわく輝いて、それでも美しい笑顔に笑いかけた。

「私あんなにオテンバだった?」
「ああ、忘れたとは言わせないぞ?どれ、」

縁側ゆっくり作務衣姿が立ちあがる。
その背中まっすぐ端正で、ひそやかな安堵と微笑んだ。

「お母さんもオテンバだったのでしょ?」
「そうだな、僕よりガキ大将だったな、」

低い響く声かすかに笑って、庭のかたすみ苧殻を積む。
敷かれた瓦あわい炭の焦げ、その黒さに歳月を微笑んだ。

「お父さん、あの子ね、お母さんが亡くなった時の私と同じ齢よ?」

だから35年、この瓦は夏ごと焼かれてきた。
迎え火、送り火、焚かれる苧殻を父と見つめた夏。
小学校はじめての夏、そして母が逝った夏、そのまま新盆を迎えた七歳の夏。
この瓦で新盆の苧殻を焚いた、それから二人きりずっと、けれど今、小さな背中ゆれる紅色に父が笑った。

「そうだな、だから時間が遡った気分になるな?」

ちいさな浴衣の背ゆらす紅、あの三尺帯は私の背に揺れた。
まだ小さかった私の袂、金魚ゆらゆら気に入りの浴衣。
けれど縫ってくれた母はあの夏、苧殻焚く煙に送られた。

「そうだね…あの子みたいに私もはしゃいでた、」

小学校はじめての夏休み、はしゃいでいた。
あの夏の日、まだ母は帰って来ると思いこんだまま。
何も解っていなかった夏、あの夕闇のまま紅い三尺帯ゆれる。
あの夏の夜、父は何を想ったろう?

「お父さん…あの子もまだ信じてるんだわ…あのひとが帰ってくるって、」

想い零れて夕闇にじむ、苧殻の煙に面影ゆれる。
紅い三尺帯ゆれる小さな横顔、あの眼もとそっくりのあなたが愛しい、逢いたい。

「逢いたい、よ…」

涙こぼれて想いこぼれる、逢いたい。
逢いたい、逢いたい、あの人に逢いたい、どうして?

「お父さん…あのひと寂しくないかな、ひとり…あの世に、旅立つのっ、」

あなたは一人でゆく、彼岸へ。
送りだす苧殻の煙に逝ってしまう、あの夏に送りだした母のように。
どうして、どうして自分はいつも、送りださなくてはいけないのだろう?

「おとうさん…わた、し、どうして…おいてかれちゃうの?」

おいていかれてしまう、いつも、どうして?
母も、そしてあなたまで?

『ずっと一緒に生きよう、白髪のジイさんバアさんになってもさ?』

あなたはそう言ってくれた、でも私の髪はまだ黒い。
あなたの最期も黒髪だった、あの夏の母と同じように。
それなのに、白髪まだ一本も無いのに、どうして一緒にいない?

「そうだな…おまえも、僕もおいていかれたなあ、」

父の声やわらかに響く、低い優しい、あの夏の声。
穏やかな横顔やわらかに滲んで、黄昏そっと白髪きらめいた。

「おいてけぼり同士だな、でも、あの子も今ここにいるぞ?三人なら寂しくない、」

白髪きらめく声やわらかい、その切れ長い瞳が私を映す。
映してくれる眼差し穏やかで、ただ優しく微笑んだ。

「彼とはお母さんが一緒にいてくれてる、大丈夫だと信じてみよう?」

大丈夫、そう笑ってくれる声に苧殻が薫る。
あわい甘い苦い痛覚そっと刺されて、涙すなおに頬つたう。
焚かれる煙たなびいて夕闇とけて、夏花の梢はるか月が昇る。


百日紅:サルスベリ、花言葉「雄弁、愛嬌、あなたを信じる、不用意」

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