萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

霧氷の森、冬の朝

2020-08-25 23:29:18 | 写真:山岳点景
白銀の森、凍れる青い朝に 
山岳点景:霧氷@霧ヶ峰2019.4


猛暑日ツヅキに・厳冬期の写真で残暑お見舞いを、笑
霧氷は氷点下で樹木などに着氷する白~半透明の氷層の総称・樹氷も霧氷の一種です。
冬山は厳寒に冴える凛々しさが好きです、トハイエ低体温症・短い日照時間・転滑落etc危険だらけなので要注意、笑
【撮影地:長野県霧ヶ峰2019.4】

夏休み×緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末、笑
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第86話 建巳 act.5 another,side story「陽はまた昇る」

2020-08-25 21:24:00 | 陽はまた昇るanother,side story
Le tram traȋnait ses mélodies 
kenshi―周太24歳3月末


第86話 建巳 act.5 another,side story「陽はまた昇る」

僕が今から行くところは、道だろうか、線路だろうか?
けれど目的地の今日はそこだから。

「…ひさしぶり、」

声そっと微笑んで、見あげる窓は聳え立つ。
ここに来るのは今日で最後、想いに穏やかな声が言った。

「なるほど、湯原さんも大胆ですね?」
「加田さんも、大胆だと思いますか?」

訊き返した隣、細い瞳やわらかに笑ってくれる。
今日で二度め、まだそれしか知らない青年が周太を見た。

「ここに来ると知ったら、周りに止められるのではありませんか?」

冷静な言葉、そのくせ穏やかな朗らかな視線が訊いてくる。
精悍なくせ優しい笑顔にジャケットの藍色が深い、白いシャツ端正に映える。
冷静だけれど明るくて穏やかな誠実、このひとが今日、自分の元に来た理由わかるようで微笑んだ。

「加田さんが今日いらしたのは、大叔母は今日のこと気づいたからですか?」

あの大叔母なら気づくかもしれない。

―長野にも駆けつけた人だもの、ね…お父さんのことあるからなおさら、

大叔母は後悔している、今も。
14年前に従甥を亡くした過去を悔やみ怒り、哀しんでいる。

『十四年前こうするべきだったわ!あなたを引っ叩けてたら喪わないですんだのに、あなたも私も大事なものをっ!』

長野の山麓、夜の雪ふる駐車場で叫んだ瞳。
あのとき傍にいた黒いコート姿は、今はジャケット姿やわらかに微笑んだ。

「大事なひとは大事にしたいと、誰もが願うのではありませんか?」

それでも行くのか?
こんな問いかけ当り前な入口、周太は青年を見あげた。

「だから僕は今日ここに来たんです。今日のために僕は、警察官になったんです、」

今日のため、唯それだけが理由だった。
唯ひとつ知りたいと願っていた、だから警察官になって今日ここにいる。

「今日のため、湯原さんは警察官になったんですか?」

静かな声が尋ねてくれる。
この場所に今、こうして隣に立つ人に周太は微笑んだ。

「はい、警察官であることを自分で終わりにするために、警察官になりました、」
「ご自分で、終わりにするために?」

明るい静かな視線が訊いてくれる。
否定はしない、ただ受けとめてくれる声に笑いかけた。

「自分の意志で辞めることが僕には大切なんです。父もしたかったことだから、僕は叶えます、」

この想い、大叔母も解っているのかもしれない。

「お父さまも、したかったことなのですか?」
「はい、」

肯いて見あげる先、職場だった窓が遠く高い。
あの場所もっと遠くへ自分は行く、願う隣からテノール静かに言った。

「湯原さんの退職は体調不良が理由です、退職手続きもご本人は来られないはずですよ?」

言われて、記憶そっと敲かれる。

『湯原の退職は体調不良を表向きの理由にする、だから退職手続も本人は来られない、』
『あのひとのサシガネだよ、もう二度と警察とは関わらせたくないそうだ、緊急措置も辞さないとな?』

たった数日前、上司でパートナーだった男が告げた現実。
すべては自分を守るため、そう納得しても譲れないまま問いかけた。

「加田さんが伊達さんと話したんですね?大叔母の指図でしょうか、」

自分を守ろうとしてくれる、その想いは温かい。
けれど自分で立ちたい願いの隣、明るい静かな瞳が微笑んだ。

「今日のためだから、黒いスーツで今日ここに来たんですか?」

黒いスーツ、白シャツに紺色のネクタイを締めてきた。
それを指摘してきた視線は穏やかに朗らかで、そのくせ冷静な瞳に告げた。

「はい、だから行ってきます…僕は自分で知りたいんです、」

誰に肩代わりもしてほしくない、父のこと。
だから14年ずっと追いかけて、願い続けた歳月に静かな眼が笑った。

「私もご一緒します、いいですね?」
「…え?」

どうして?
差しだされた提案の途惑いに、冷静な瞳が笑った。

「今回の事件、私の仕事に無関係ではありません。職権乱用ではないから心配しないでください、」

告げられる言葉に現実が覗きこむ。
そうして解かれる疑問に、声そっと低めた。

「…だから長野に来られたんですね?あの夜、あのタイミングで、」

ずっと疑問だった、なぜ、この青年と大叔母が現れたのか?
そして与えられたヒントに雪夜の声が響く。

『早く銃を引きなさい、ここにいる加田さんも起訴を保証してくれます』

数週間前あの夜、雪降る病院の駐車場、銃声と硝煙あわい鋭い香。
雪の駐車場で大叔母が呼んだ名前、その細い瞳ただ微笑んだ。

「公私混同でもありませんよ?」

微笑んで衿元、ネクタイさらり締めていく。
ジャケットのボタン2つとめて、髪かきあげると加田は笑った。

「さあ、行きましょうか?」

五秒前は物静かな青年、今はスーツ姿の検事。
こういう人だから今日ここに来たのだろうか?

(to be continued)
【引用詩文:Jean Cocteau「Cannes」】

第86話 建巳act.4← →第86話 建巳act.6

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水紗が舞う、吐竜の滝

2020-08-25 09:06:00 | 写真:山岳点景
迸る、轟く白紗かすんで水が舞う 
山岳点景:吐竜の滝2017.7


猛暑日アンマリだから写真で暑気払い×残暑お見舞いを、笑
滝や渓流は涼しくて楽しいですが、転滑落etc危険だらけなので要注意。
渓流の水遊びや沢登りは事故も多い×道迷い遭難の死亡原因スポットも沢沿いです。
【撮影地:山梨県八ヶ岳山麓2017.7】

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