萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第86話 建巳 act.22 another,side story「陽はまた昇る」

2020-11-27 21:40:00 | 陽はまた昇るanother,side story
Of moral evil and of good, 
kenshi―周太24歳4月


第86話 建巳 act.22 another,side story「陽はまた昇る」

言われて、あらためて気づかされる。
決断と、これから先と、ひとりじゃないこと。

「後期の合格発表の日に小嶌さん、頬を腫らして来たろ?あれから青木先生、責任を感じてるみたいでさ。先生らしいだろ?」

チタンフレームの眼鏡ごし、闊達な瞳が困ったよう笑ってくれる。
温かな香くゆらす店の席、その言葉も温かで周太は微笑んだ。

「すごく先生らしいね…田嶋先生と青木先生のお話のこと、賢弥は聴いてるんだよね?」
「ちょーど居合わせたんだよ、小嶌さんの合格祝いで飲んだろ?あの時だよ、」

話すテーブル肘ついて、顎さき左の手で撫でる。
記憶たぐるような眼すこし笑って、友だちは口ひらいた。

「周太が電話で席を外したろ?あのとき小嶌さんもちょっと外してさ、その隙に先生たち話し合ったんだよ。明るく学ばせたいよってさ?」

話してくれる事実に、深く静かに温まる。
こんなふうに援けられて救われて、そんな今に息そっと吐いた。

「ん…ほんとうに、明るく勉強してってほしいね、」
「だよな、」

闊達な瞳からり笑って、水のコップそっと指弾く。
かすかな、けれど澄んだ音に友だちは笑った。

「俺はさ、小嶌さんなら大丈夫だと思うんだよな。さっきのメールもワクワク感あふれてたしさ、」

彼女なら大丈夫、そう告げて笑ってくれる。
こんなふう言ってもらえる人だからだ?ふれる想い微笑んだ。

「そうだね、いつも明るく見てる美代さんだからね?」

あの瞳は、いつもそうだ。
実直で明るい明るい眼、まっすぐ見つめて誤魔化さない。
だから進学も諦めなかった、そうして叶えたひとに友だちが笑った。

「ほんとそれ。いい意味で楽天的でさ、明るく後先ちゃんと考えててカッコいいんだよなあ。女の子には珍しいタイプかも?」

バリトン朗らかに笑ってくれる。
その言葉ひとつ一つ肯けて、けれどラストに尋ねた。

「そうなんだけど…あの、めずらしいタイプなの?」

めずらしい、と言われても自分には比較対象が無い。
解らなくて尋ねたテーブル、胡麻油の香ごし言われた。

「女のヒトって群れたがるトコあるだろ?浮かないように同調大事ってカンジでさ、自分の意見は持たないで流行に乗るようなさ?」

芳ばしい甘い辛い香に、明朗な声くゆらせる。
言われる言葉ただ瞬いて、不慣れなまま友だちが笑った。

「なんか周太、びっくりしてる?」
「うん…あの、」

素直に肯いて、あらためて自分に困ってしまう。
自分こそ考えたこと無かったな?そのまま口ひらいた。

「あのね、僕、あまり友だちいなかったから…女のひとが普通どうとか知らなくて、」

ずっと孤独だった、少し前までは。
ずっと警察官になることだけ考えて、そのためだけに生きてしまった。
けれど変わったのは、あのひとに逢えたから。

―英二がいたから僕は知ったんだ、誰かを知ること嬉しいって…大切にしたいって想えたんだ、

知りたいなんて思っていなかった、少し前の自分は。
けれど今もう知って、そうして囲むテーブルに親しい瞳が笑ってくれた。

「俺もそんな知ってるわけじゃないよ、ってかさ?ひとりの人間が知ってることなんて、この世界と時間の何パーセントなんだろな?」

明朗な声に鼓動そっと敲かれる。
ほら、同じだ?

「そうだね、知らないから楽しくて、だから学問があるのだものね?」

知らない、だから楽しい。
それは人に対しても同じだ、そうして今こんな自分でいる。
あらためて笑いかけたテーブル越し、友だちの笑顔ほころんだ。

「ほんとそれだよな、あ?かなり腹へってきた俺、」
「ん、僕も、」

一緒に肯いて笑って、スーツの底に空腹が温かい。
もうじき来るかな?見やった先、お盆かかえた主人が笑ってくれた。

「ほい、おまちどうさん。いっぱい食べてくれよ、」

あたたかな湯気、芳ばしい香あふれて愉しい。
この温もりも最初は、あなただった。

『外泊日、飯おごるよ?』

そんなふう誘ってくれて、ここに座った。
あれから一年半が過ぎて、あなたがいないテーブルは変わらず香る。

「唐揚げは新しいソースかけてみたんだよ、試食お願いできるかい?」
「やった、うまそうですね、」

芳ばしい湯気やわらかに声ふたつ、空気ほっと温かい。
けれど今は聞こえない声どうして、僕の耳はたどるのだろう?

『こっちもうまいよ、周太?』

低い、きれいな声。
明るくて楽しげで、けれど一昨日は違っていた。
奥多摩の雪の森、座りこんだ深紅の登山ジャケット、あなたの声どうして?

―どうして英二…僕は、

どうして?なぜ?
そんな言葉ゆるやかに締め上げる、どうしていいか解らない。
おととい雪の森で聴いた声、見つめた瞳、あなたは何を願うのだろう?

「おっ、うまい。周太も食ってみなよ、」

湯気あたたかなテーブル、友だちが笑って皿よせてくれる。
あの時間と同じ絵柄の皿、同じ空気、けれど違う相手に微笑んだ。

「ありがとう、いただくね?」
「俺はすごい好き、ネギとショウガが効いてていいよ、」

明るい瞳が眼鏡ごし笑う、闊達なトーン清々しい。
裏表どこにもない笑顔、ただ温かで、目の前の皿に箸はこんだ。

「ん、おいしい、」
「だよな?オヤジさーん、すごい旨いです!」

明朗なバリトン笑って、カウンターの奥でも笑顔ほころぶ。
胡麻油くゆらす豊かな食卓、そのままに訊かれた。

「なあ周太?小嶌さんと何かあった?」
「え?」

訊かれて上げた視線、友だちの眼が見つめ返す。
明朗まっすぐで、逸らせないまま言われた。

「引っ越しの手伝いに周太が行かないって意外でさ?丹沢のフィールドワークでも同じ部屋だったのに、なんでだろう思ったんだよ、」

丹沢の山小屋、美代と二人部屋だった。
あの時と変わってゆく今に声そっと押しだした。

「…ちゃんと考えたんだ、僕も、美代さんも、」

あの日、長野の現場に向かう改札口。
あのとき彼女は気づいて、そして僕も自覚した。
大切なことは変わらない、それでも窯変してゆく想い微笑んだ。

「前の僕はね、明日なんて無いって思ってたんだ。でも今は明日も未来のことも考えてて…きちんと美代さんのことも考えたいい、」

明日なんて無かった、警察官の自分には。
そんな自分が本当に、あなたのことを考えていたろうか?

「ずるかったんだ、僕。そのぶんも、これからは大切に考えたいんだ、」

声にして肚底そっと落ちてゆく。
こんな自分でも大切にできるなら?想いに丼ひとつ、店主が微笑んだ。

「五目そば、おまちどうさん。大盛のサービスだよ?」

醤油あまやかな胡麻油、温かにくゆらせる。
この香あのときも温かだった、見つめるまま微笑んだ。

「ありがとうございます、いつもすみません、」
「いいんだよ、俺が好きでやってるんだからねえ、」

破顔ほがらかに言ってくれる、その眼ざし素朴に温かい。
この人に「真実」を告げられたら?願うテーブル、店主が言った。

「あの兄さんとは最近一緒じゃないんだねえ、ついさっき来てくれたんだよ?」

ほら、心臓がつかまれる。

(to be continued)

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斗貴子の手紙
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枯山水の朝

2020-11-27 19:04:24 | 写真:建築点景
朝ふりつもる、枯山水やわらかな時間 
建築点景:秩父神社2013.12


日本庭園はシンとした空気が好きです、苔×石の枯山水も楽しいなあと。
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:埼玉県秩父市2013.12】

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時の陰影、古民家景

2020-11-27 08:12:24 | 写真:建築点景
影と光えがく、ある屋敷の時間風景 
建築点景:古民家2013.11


古い日本家屋は好きです、原風景のような静かな空気がナンカ惹かれるなあと。
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:神奈川県2013.11】

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秋簾、紅葉点景

2020-11-27 08:02:00 | 写真:山岳点景
紅色透かす、紅葉ゆらす視界の秋 
山岳点景:紅葉2016.12


神奈川の平地は紅葉11月下旬~12月、住宅街の森も秋の極彩色に輝きます。
って書くと・住宅街に森?って思われるかもしれませんが・丘と森なかなか多い神奈川です、笑
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:神奈川県2016.12】

どこの低山でも・秋は日没も早いので14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

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深夜雑談、霜月の夜に×登山初歩の話

2020-11-27 03:02:19 | 雑談
4年前の今ごろ、神奈川は初雪だった。

っていうのを写真フォルダー見ていて気がついて、
っていうのも写真整理しているから・山しばらく登れていない分ダケ時間あるからね?笑

今住んでいるとこは丹沢が近い、丹沢山麓って言えるくらい。
って言うと「丹沢いいじゃーん」言われそうby山行く人なんだけども・無雪期の丹沢ちょっと自分は敬遠で。
なぜか言うと丹沢最高峰=蛭ヶ岳って名前の通り・ヤマビルすごいんだよね丹沢。

ヤマビル防止には塩水とか忌避剤とかあるけど、
夏に標高1,000未満を歩くのケッコウしんどいなーいうのもある、暑いから。笑
そんなわけで1,500超の山が好きで山梨とか長野で登ってたんだけど・今、ちょっと神奈川から県外に行くのは憚られる。

でも雪の季節になればヤマビルはいなくなる、
なにより雪山はいい、雪崩とかアレコレ危険度もちろん高くはなるけど。
っていうか夏道をほぼ知らないルートを積雪期イキナリ行って大丈夫かなあ?とも思う、

丹沢山塊を歩いた経験は、小5で行く林間学校の時だけ。
あとはドライブついでに里山ちょっと散歩した程度で、きっちり登山したことがない。
地元なのにもったいないねー言われたりもするけれど、ヤマビルがなーってツイ思って行きそびれ。笑

いつも一緒に登るニイサンも、丹沢の経験は大山だけらしい。
このひと↑は身内×近居だから良かったなあ思う、ゴハンやら何やら相変わらず一緒できるから。
そーゆー相手とじゃなかったら、一緒に登山とかも出来なかったろうなあと。

山は元々、このニイサンに誘ってもらったのが最初で。
それまでは山=ばーちゃんちの畑があるとこってカンジで生活圏内の話だった。
いわゆるザイルとかアイゼンとかストックとかソンナン全く使わない、いわゆる山仕事の世界しかなかった。

あとは大学時代、誘われて富士山に登ったけど・装備もナンも知らないでトレーニングシューズでとにかくもう疲れた記憶。
社会人になって、誘われて尾瀬を歩いたけど装備もナンもフツーのハイキングレベルだった。

そんなんで登山なんて言えるモンでもなかったんだけど、
ココ始めたキッカケの小説で登山を扱うから、やってみようかなー思った。
元々、なーんだか小さいころから山は好きで・自分の足で歩くの楽しいだろうなー・ちゃんとやってみたいなー思って、
そんな話を身内のニイサンにしたら、

登山?あー学生時代ちょっとやったなあ、行く?

なんてカンジで言ってくれて、
それで最初は秋の奥多摩を一緒に登ったら、やっぱり楽しかった。
なにが楽しかったって、景色はもちろん・山の植物を見るのがカナリ楽しかった。
栽培ものと違う空気があるというか・自然の風雪×日照に清々しい強靭あふれていて、凛々とした姿にツイ惹かれて。

で、ハマったもんだから・道具ちゃんと買うぞーって一緒に選んでくれて、
三点支持やとフラットフットなんかも教えてもらい、自分でも本買って勉強して、カメラもデジタルにした。
観天望気については元々じーちゃん・ばーちゃんに教わってたから、むしろニイサンより得意なんでけども、笑

初の雪山は奥多摩の三頭山、それから山梨や長野の山を歩くようになった。
メジャーな山、マイナーすぎる山、天然花畑がきれいな秘密のルート、などなど。
マイナー山のいいトコは下の写真みたいな展望も貸し切りなところ=遭難しても自助の覚悟が必要だけど、笑
【撮影:山梨県2016.11】



で、山の大前提→まず、山は経験者と行くこと。

いきなり未経験で行ったら遭難します、かなり高確率で。
遭難すれば他人に迷惑をかけ・家族に肩身の狭い思いさせます、金銭的負担スゴイことになったりも。
なにより山の遭難事故は一瞬で死、そして遺体も見つからないなんてザラにあることです。

山を歩くには経験×学ぶ×装備が不可欠です。
特に観天望気と歩行技術は「経験」がモノをいいます、伝授してもらわないと難しいかなと。
そして山では観天望気=天候予測ができないと、カンタンに天候遭難→死へと直結です。
それは低山でもフツーに起こります、駐車場から200メートルで遺体発見とかも。

自分は身内に経験者がいたけど、そうじゃなかったら山岳ガイドを最初は頼んだと思います。
山岳会に入るって手段もあるけど、しょーじきなとこ・山岳会も玉石混交・入るには注意が必要だとか。
高齢者ばかりのところも危ないし、若者だらけもノリ体力で突っ走るから危ないし、
最近ハヤリのネットで初対面いきなりパーティー組むとかムリ無いわーと。

なんてナントナク書いていたらカナリ遅くなったので寝ます、
明日は休みだからヒサシブリ夜更かしやってみたけど、いくら何でもこの時間は。笑

そんなこんなで今シーズン、丹沢積雪期でびゅー☆するのもアリだなーとも。
それくらい雪山が懐かしいから、雪山の足もと写真UPしてみました、笑
【撮影:奥多摩三頭山2017.1】


雪山は下山後の温泉も最高です、笑
どこの山でも下山は14時迄に完了しないと日没×気温低下で行動不能→遭難に陥ります、
また積雪期は所要時間が無雪期の2~3倍かかることもザラ、難易度も大幅に変わるのが雪山です。
氷雪で足場が変わる・冬の豪風(富士山など吹きさらし単独峰は特に危険)・交通アクセスの冬季閉鎖などなど。
きちんと下調べ×準備シッカリ・時間もルートもグレードも余裕あるとこで、誰にも迷惑かけずに楽しめるといいですね。
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