萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第86話 建巳 act.23 another,side story「陽はまた昇る」

2020-11-29 22:55:29 | 陽はまた昇るanother,side story
Of moral evil and of good, 
kenshi―周太24歳4月


第86話 建巳 act.23 another,side story「陽はまた昇る」

呼吸が止まる。

「あいかわらず惚れ惚れする食いっぷりでねえ、ひさしぶりに嬉しかったですよ?」

ほら?雪の森もう見てしまう。
まばゆい白銀みたされる、あなたの場所だ。

「あの、えい…僕が最初に来たとき、一緒だったひとのことですか?」

声を押しだした唇、胡麻油やわらかな湯気くゆらせる。
温かな食卓の席、けれど記憶の雪が匂いたつ。

「ええ、あの凄まじくイケメンの兄さんですよう。チャーシュー麺と五目丼の大盛ぺろりの、」

店主の声ほがらかに温かい、その言葉に鼓動そっと軋みだす。
だって間違いない、あなたのことだ。

「今日、来たんですか?」
「ええ、昼前に来てくれてねえ。めずらしくスーツ姿だったからシッカリ覚えてるんだよ、」

気さくな笑顔ほころばせて、うれしかったと店主が笑う。
温かな笑顔、温かな湯気の席、それなのに雪の森が映りこむ。

『背負わせてよ周太、今だけでもさ?』

雪音さくり響く、かすかに渋い甘い風が匂う。
頬なぶる風さやかに澄んで冷たくて、けれど温かかった広い背中。

「そっか、周太の知りあいが今日ここに来たんだ?」
「ん…そうみたい、」

微笑んで応えて、温かな丼に箸つける。
今ここは新宿のテーブル、大好きな友だちと囲む食事。
湯気あたたかい馴染みの店、それなのに心はるか雪の森にさらわれる。

―英二が来たんだここに、この新宿に今日…どうして?

熱い麺すすって温まる、それなのに雪の面影たどりだす。
たった2日前あざやかな、この五感すべて奪う。

『このウェアまだ着てくれるんだ、周太…俺と色違いなのに、』

あなたが買ってくれた登山ウェアを着ていた、喜んでくれた笑顔。
白皙なめらかな輪郭、凛と端整あざやかな眉、きれいな綺麗なあの切長い瞳。

「周太、これも食べてみなよ?うまいから、」

ほがらかなバリトン笑って、小皿ひとつ置いてくれる。
ほら目の前、眼鏡の瞳は闊達あかるくて、ほっと息ひとつ微笑んだ。

「ありがとう、賢弥、」
「おう。水、足しとくよ?」

日焼あざやかな頬にっこり、明るい笑顔ほころばす。
水差しとる指は武骨に節くれ頼もしい、その空気どこまでも記憶の貌と逆にいる。

―くったくない笑顔って賢弥のことなんだろうな…英二の笑顔はきれいだけど、でも、

ほら鼓動たどりだす、白皙の貌に軋まれる。
きれいな綺麗なあなたの笑顔、あなたの瞳、あの眼ざしに、僕はふたたび逢えるのだろうか?

『あの兄さんとは最近一緒じゃないんだねえ、ついさっき来てくれたんだよ?』

今日、あなたはここにいて、今ここに自分がいる。
同じ場所、同じような時間、けれど時間すこしに隔てられ逢えない。

僕は、あなたに逢いたい?

「周太?しゅーうた、」
「え、」

呼ばれて顔を上げて、眼鏡の瞳が困ったよう笑う。
困ったなあ?そんな眼ざしも闊達な友だちは、やわらかな湯気に笑った。

「あのな周太、食うときは食いなよ?」

どういう意味だろう?
見つめる真ん中、闊達な瞳が笑ってくれた。

「ただウマいなあって食うと俺はスッキリするんだ、なーんも考えないでさ?周太もやってみなよ、」

話しながら唐揚げひとつ、また皿に乗せてくれる。
葱の芳香さわやかに香ばしい、唇くすぐる湯気に微笑んだ。

「ありがとう賢弥…気を遣わせてるよね、僕、」

受けとりながら申し訳ない、こんなふう気を遣わせて。
申し訳なくて、けれど温かな一皿に友だちは微笑んだ。

「そーやって謝るなよ?疲れるだろ、」
「え…」

言われて見つめて、闊達な眼が笑ってくれる。
ことん、丼ひとつテーブルに置いてバリトンが笑った。

「モチツモタレツでいいじゃん、長いツキアイするならイチイチ気にしてらんないよ?ありがとうだけで充分だろ、」

笑って、丼かかえて箸また動きだす。
健啖すこやかな音と湯気、やわらかな明るい空気に微笑んだ。

「ん…ありがとう、賢弥、」
「うん、」

うなずいて笑って、眼鏡ごし闊達ほころぶ。
自分より三才下、そのくせ達観あざやかな明るさに笑いかけた。

「賢弥、また聴いてくれる?もうすこし落ちついたら、」

この友人には知ってほしい、理解されて、そして理解したい。
こんな願いごとの先、闊達な瞳が笑ってくれた。

「いつでもいいよ、周太のタイミングでな?」
「ん、ありがとう、」

感謝すなおに声になる、鼓動やわらかな温もり響く。
ゆるやかに力ほどかれてゆく、この食卓は温かい。

それでも、眼ざしひとつ離れなくて。

※校正中
(to be continued)
第86話 建巳act.22← →第86話 建巳act.24
斗貴子の手紙
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倒木の秋、茸彩る

2020-11-29 13:40:00 | 写真:山岳点景
朱色ひとひら、倒木にも彩る秋 
山岳点景:森のキノコ2017.11


森ではキノコをよく見ます、カワイイのもありソウデモナイのもあり。笑
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、山にまた行きたくなります。
【撮影地:栃木県日光白根山2017.11.3】

これは多分チチタケ乳茸、乳白色の汁が出る茸で良い出汁がとれるそうです
※山の産物も所有権や国定公園の規定により無断採集はご法度・許可など調べてくださいね?

11月、山は降雪の世界×登山靴はもちろんアイゼン・ゲイター・ストックの携帯が不可欠です。
写真の森は暗いカンジですがAM11時前の撮影・針葉樹林は光を通さないため暗くなるのが早いです。
どこの低山も高山も秋は14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末。
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森の揺籃

2020-11-29 08:50:18 | 写真:山岳点景
山ふところ、木洩陽あやす森のゆりかご 
山岳点景:杉の幼木2017.11


杉は切株や倒木に実生の幼木が育ちます、カワイイです。
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:栃木県日光白根山2017.11.3】

11月初旬、山は雪の世界×登山靴はもちろんアイゼン・ゲイター・ストックが不可欠です。
写真の森は暗いカンジですがAM11時前の撮影・針葉樹林は光を通さないため暗くなるのが早いです。
どこの低山も高山も秋は14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

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