時の温もりに、
師走十三日、葉牡丹―benediction
ことん、
かすかな響きに耳がたつ。
音あわく消された静謐の窓、椅子そっと引いて立ちあがった。
「…、」
息ひそめて香が乾く、けれど仄かに渋い。
ほろ苦い甘い渋さ香る、馴染まない空気にカーテン開いた。
「ぁ、」
ガラス曇る空、雪を透かして視線が止まる。
呼吸ひとつ、振りむいて十字架を仰いだ。
「…報いるとき、ね?」
想い声こぼれて、足音ひそり扉に向ける。
ほろ苦い甘い香まだ消えない、香る軌跡たどらせ扉ひらいた。
「おはようございます、どうぞ?」
微笑んだ軒先、ポーチの雪だるま動く。
さらり銀色こぼれ落ちて、青年が顔を上げた。
「…不審者だって思わないんですか?」
あ、きれいな低い声だな?
けれど言葉が不穏で、可笑しくてつい笑った。
「ワケアリな方は見慣れています、ここは教会だもの?」
笑って一歩、ポーチ踏みだし手を伸ばす。
雪を払ってあげたい、願いごと彼の肩ふれた。
「こんなに雪まみれで。ずっと夜通し歩いて?」
話しかけ肩はらう指、冷たさ包んで風ふれる。
もう止んだ雪、それでも銀色まぶした青年はうなずいた。
「はい、早く来たかったから、」
答えてくれる口もと息が白い。
その頬あわい紅潮に、幼さと歩調が思われて微笑んだ。
「そんなに急いでい…あら?」
話しかけて視線、青年の懐に止まる。
長身すこやかなコート姿、けれど膨らんだ懐が動いた。
「まあ、」
声こぼれた真ん中、青年がコートのボタン二つ外す。
くつろげた襟元ふわり、まるい頬やわらかに寝息を立てた。
「弟なんです、どうしたら育てられるか教えてほしくて、」
きれいな低い声かすかな戸惑い、けれど意志が響く。
まだ高校生かもしれない貌、それでも強い視線に笑いかけた。
「まずは中へどうぞ?温まるものを食べましょう、」
招き笑いかけて、ほら?時が戻る。
あれから何度目の冬だろう、たどる軒の花あのときのまま。
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12月13日誕生花ハボタン葉牡丹
師走十三日、葉牡丹―benediction
ことん、
かすかな響きに耳がたつ。
音あわく消された静謐の窓、椅子そっと引いて立ちあがった。
「…、」
息ひそめて香が乾く、けれど仄かに渋い。
ほろ苦い甘い渋さ香る、馴染まない空気にカーテン開いた。
「ぁ、」
ガラス曇る空、雪を透かして視線が止まる。
呼吸ひとつ、振りむいて十字架を仰いだ。
「…報いるとき、ね?」
想い声こぼれて、足音ひそり扉に向ける。
ほろ苦い甘い香まだ消えない、香る軌跡たどらせ扉ひらいた。
「おはようございます、どうぞ?」
微笑んだ軒先、ポーチの雪だるま動く。
さらり銀色こぼれ落ちて、青年が顔を上げた。
「…不審者だって思わないんですか?」
あ、きれいな低い声だな?
けれど言葉が不穏で、可笑しくてつい笑った。
「ワケアリな方は見慣れています、ここは教会だもの?」
笑って一歩、ポーチ踏みだし手を伸ばす。
雪を払ってあげたい、願いごと彼の肩ふれた。
「こんなに雪まみれで。ずっと夜通し歩いて?」
話しかけ肩はらう指、冷たさ包んで風ふれる。
もう止んだ雪、それでも銀色まぶした青年はうなずいた。
「はい、早く来たかったから、」
答えてくれる口もと息が白い。
その頬あわい紅潮に、幼さと歩調が思われて微笑んだ。
「そんなに急いでい…あら?」
話しかけて視線、青年の懐に止まる。
長身すこやかなコート姿、けれど膨らんだ懐が動いた。
「まあ、」
声こぼれた真ん中、青年がコートのボタン二つ外す。
くつろげた襟元ふわり、まるい頬やわらかに寝息を立てた。
「弟なんです、どうしたら育てられるか教えてほしくて、」
きれいな低い声かすかな戸惑い、けれど意志が響く。
まだ高校生かもしれない貌、それでも強い視線に笑いかけた。
「まずは中へどうぞ?温まるものを食べましょう、」
招き笑いかけて、ほら?時が戻る。
あれから何度目の冬だろう、たどる軒の花あのときのまま。
葉牡丹:ハボタン、花言葉「祝福、慈愛、愛を包む、利益、動じない、違和感を覚える」
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