萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

soliloquy 文披月act.8 Flidais ―another,side story「陽はまた昇る」

2012-10-03 02:00:41 | soliloquy 陽はまた昇る
彼方の森へ



soliloquy 文披月act.8 Flidais ―another,side story「陽はまた昇る」

遠く近く、波の聲。

漣きらめく光ふる彼方、その森はあると言う。
遠い記憶の優しい夜、語られたお伽話の女神は今も、海の彼方に住んでいる?

Flidais

古き秘密の神の名は、遠い彼の地で異端とされた。
けれど、滅びない呪文の名前は、きっと樹木に隠され生きている。

ほら、梢ゆらす風は女神の囁き、密やかな聲。
ほら、ごらん?木立の緑に走りゆく鹿は、女神の使い。
ほら降りそそぐ天の梯子、緑に黄金に輝く木洩陽の、光の粒は女神の息吹。
その息吹まばゆい巨樹の根元、純白に咲く花は女神の涙、祝福のなぐさめ。

月明の銀髪、暁闇の黒髪、翳すのは鹿角と花の冠。
深く祈り映した瞳は星の燈火、なめらかな肌の薔薇色あわく、しなやかな体は軽やかに奔らす。
従わす牡鹿の角に天火を灯らせ、梟の知らせに時を読みながら、真柱の大樹に凭れて微睡み安らぐ。

深き森の眠らす静謐、その帳くるます光の夢に、森の鼓動は息づいていく。




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