愛しい純情へ、

secret talk9 愛逢月act.1―dead of night
蛇口を閉じて、水音が止まる。
洗って籠に並べた皿にランプの光艶めいて、主夫の端正な性質が慕わしい。
いつもながらの丁寧な手並みに見惚れてしまう、そんな婚約者に英二は微笑んだ。
「周太は片づけも綺麗だな、料理が巧いだけじゃないね、」
「ん、ありがとう…今夜は、なにがいちばんおいしかった?」
気恥ずかしげに微笑んで訊いてくれる、その貌がすこし赤い。
夕食に楽しんだワインの酔いが名残らす、その清楚な艶に見惚れてしまう。
こんな貌は嬉しそうで幸せそうで、そして今、まだ結構酔っているかもしれない?
―周太?その質問は食べてる時もしたよ?
心の声に笑ってしまう、こんな可愛い質問くりかえす酔い方が可愛すぎる。
こんな酔っ払いなら歓迎だな?嬉しくて英二は答えを繰り返した。
「今日は魚が旨かったよ、野菜やムースと重ねたやつ、」
「ん、ミルフィーユ仕立てのサラダだね?…和風にしてみたんだけど、えいじは和風すきだね?」
嬉しそうに笑って答えてくれる、笑顔が可愛い。
笑顔の頬に透ける薄紅が綺麗で、惹かれるまま英二は恋人の頬にキスをした。
そっと離れて笑いかける、その笑顔に幸せな薄紅色がほころんだ。
「きすしてもらっちゃった…うれしいな、だいすき、」
うれしいのはこっちです。
そんな笑顔で「だいすき」なんて、こっちこそ大好きです。
どうしよう、こんなの可愛すぎる、今すぐ色々したくなる、跪きたい。
でも時計はまだ20時、今から色々したら周太の体力が保たないかもしれない?
―疲れさせ過ぎて具合悪くするの、嫌だな?明日もデートしたいし、
明日もお互い一日自由に使える、だからまたデートしたい。
やっぱり疲れ過ぎたら困るな、そんな考えに奴隷モードから少し脱け出した。
脱け出した分だけ理性を取り戻して、英二は婚約者に微笑んだ。
「俺も周太のこと、大好きだよ?」
「ほんと?…うれしいな、もっと好きになってね?」
ほら、そんな笑顔でそんなこと言ったらダメですって。
やっぱり色々したくなる、こんな早い時間からは困るのに?
こんな時間から始めたら、自分の体力が保つまま朝まで好き放題するに決まっている。
そうしたら君のこと疲れさせ過ぎるのに?そうしたら明日はデートなんか出来なくなってしまう。
―ちょっと、勉強でもして真面目になろう
これは冷静になるために一番良い考えだろう。
それに異動が決まった以上、早く周太に教えた方が良い。
そう考えを纏めて英二は、無垢の癖に艶っぽい婚約者へと提案をした。
「周太、銃創の資料を持って来たんだ。すこし勉強しようか?」
「ん、勉強したい。ありがとう、英二、」
提案に恋人の背すじが伸ばされて、エプロンを外してくれる。
きちんと畳んで、いつもの場所に置くと黒目がちの瞳が笑いかけてくれた。
「はい、上に行きましょう…せんせい?」
なにこれ可愛い、敬語で「せんせい」ってなんですか?
こんな呼び方されたら、そういうプレイとか思いそう?
ただでさえ童顔小柄で稚くて、青年というより少年と言う方が似合うのに?
―楽しい妄想が始まりそうだ?
真面目になって冷静になる、そのために勉強しようとしたのに?
これではまるで逆効果、しかも今はそれどころじゃない筈なのに?
そんな考え廻らしながら階段を上がって部屋に行くと、英二は自分の鞄を開いた。
―真面目にならないとダメだ、大切な勉強なんだから
心に現実を描き、冷静が心に戻ってくる。
そして1通の茶封筒と小さい紙袋を取出し、勉強家の恋人へと笑いかけた。
「周太、この封筒に銃創の応急処置について、実例の資料が入ってるから。擦過射創だけど、参考になるよ、」
「え…よく見つけられたね、英二?」
驚いたよう見上げてくれながら、封筒を受けとってくれる。
封筒から出して真剣な瞳で読んでいく、そしてまた見上げて周太は綺麗に微笑んだ。
「ありがとう、英二。すごく解りやすいね?」
「よかった、役に立つのなら、」
答えながら密やかに溜息こぼれてしまう。
出来ればこの知識が役に立つことない方が良い、そんな願いが起きあがる。
この「銃創」の知識が役立つ時、それは周太が銃弾の飛ぶ「死線」に立つ時だから。
―どうか任期が無事に過ぎてほしい、
そんな祈りに見つめる恋人は、大切そうに資料を封筒へ戻してくれる。
きちんと自身の鞄にしまって、それから黒目がちの瞳は英二を見上げて質問してくれた。
「ね、英二?銃創の応急処置だけど、せいりちゅうの意味とたんぽんが何か教えて?…家に帰ったら教えてくれるって言ってたよね?」
ちゃんと憶えていたんだな?
そんな心の声に笑ってしまう、質問内容が23歳男性と思えなくて。
けれど質問する意図が切なくて痛ましい、今朝に下された内示への覚悟を見つめてしまうから。
「そうだったな、教えるよ?おいで、周太、」
「ん、」
笑って英二は、今度は紙袋から箱を出した。
それを見つめて首傾げた周太に、すこし悪戯っ子に微笑んだ。
「周太、どうやって子供作るか、解ってる?」
「ん?…結婚すれば良いんでしょ?」
首傾げたまま黒目がちの瞳が瞬いて、英二を見つめてくれる。
どうしてそんなこと訊くのかな?そんな貌で周太は答えてくれた。
「男のひとと女のひとが結婚すると、ちょうど良い時にお母さんのお腹に赤ちゃん、出来るんだよね?それで生まれるんでしょ?」
そんな自然発生だと思ってたんだ?
その発想が可愛くて笑ってしまう、想像通りだと可笑しくて仕方ない。
やっぱり知らなかったんだな?そんな納得と笑っていると、不思議そうに訊いてくれた。
「なんで、そんなに笑うの?…なんか違うの?」
「周太、俺が学校の寮を脱走した理由、憶えてる?」
笑いながら訊いた質問に、黒目がちの瞳が大きくなる。
あのとき「妊娠した、死にたい」と女に狂言をされて英二は脱走した、それを周太は知っている。
けれど周太にとって「結婚→自然発生で妊娠」という図式なら、あの狂言をどう解釈しているのだろう?
どんな答えになるか楽しみで見つめた視界の真中で、周太は困った顔になって訊いてくれた。
「あの…もしかしてえいじ、けっこんしてたの?」
やっぱり君は、天使だね?
本当に何も解っていない、そんな現実が可愛くて可笑しくて、愛しい。
まさかそっちの発想が出るなんて、思わなかった。あくまで子供は「結婚」前提で、生々しい発想がゼロでいる。
そして心が傷みだす、こんな稚い初心な周太が向かう8月の現実に、また覚悟が熱く固まっていく。
そんな覚悟を見つめ、笑いながら英二は箱を開くと説明書を取出した。
「安心して、周太。俺は結婚するのは、周太が初めてになるから、」
説明書を広げながら、黒目がちの瞳へと笑いかける。
その瞳は尚更に不思議そうになって、無垢なままに訊いてくれた。
「そうなの?…じゃあ、どうして妊娠したって言われて、真に受けちゃったの?」
「今から、その説明もしてあげるよ。おいで、周太」
笑ってデスクの上に説明書を広げると、スタンドライトのスイッチを引いた。
それを覗きこんだ黒目がちの瞳に微笑んで、英二はストレートに事実を告げた。
「子供はね、セックスすると出来るんだよ?それで女の人の場合は、ここに入れるんだ。でもこれ、周太には無いだろ?男には無いんだ。
だから男同士だと子供が出来ないんだよ。それで生理っていうのは、ここが赤ちゃんを育てるために貯めた血液を、月一で排出するんだ。
そのとき出血する血液とかを吸わせるのに使うのが、タンポンなんだよ。銃創も出血が多いだろ?だから、これを応急処置に使うんだ、」
説明書を指さしながら実物を1つ取り出し、使い方を見せて英二は隣の貌を見た。
その貌は赤くなって、困ったよう黒目がちの瞳が羞んだ。
「ん…よくわかりました…ありがとうございます、せんせい」
その「せんせい」ときめきます。
教えた内容が子作りで、それに少年みたいに羞んだりして?
こんなの「美少年に性のレッスン」ってやつみたい、なんかそんなAVありそうだ?
このまま本当にレッスンしたくなりそう、まだ色々していないこと本当は教えてみたいし?
今夜レッスンしても許される?そんな妄想の暴走が楽しいけれど、我ながら可笑しくて英二は笑った。
「解かったなら良かった、これ、あげるよ?でも誤解されないように、気を付けてな?」
笑いかけて説明書を箱ごと渡すと、素直に受け取ってくれる。
一緒に渡した紙袋に入れながら、また周太は不思議そうに訊いてくれた。
「ね、誤解ってなんの?」
また解からないのですね、あなたさまは?
本質的に聡明な周太、けれどこの手の事は全くの奥手でいる。
その上こんな少年の容貌では、少年趣味にとったら恰好の餌食にされそうで怖い。
こんな初心で本当に大丈夫だろうか?色々と心配になりながら英二は、婚約者に少し教育を始めた。
「これは生理用品って言って、普通は女のひとだけが使うんだよ?だから持ってると、周太が女の子だって誤解を受けるよ、ってこと、」
「あ…そういうこと?でも俺、普通に男だと思うけど…だってさっきのとこないとおもうし、」
「本当は男でも、誤解するやつもいるよ?しかも機動隊は男だらけだろ?わざと誤解して面白がるヤツもいるかもしれない、」
「面白がるくらいなら良いんじゃない?…気にしなければ平気だよ?」
「だからね、周太?面白がって、身体検査とかされたら困るだろ?」
そんなことされたら、本当に困る。
心底そう思った英二へと、不思議そうに黒目がちの瞳が微笑んだ。
「身体検査って、困るの?…身長とか計ったりするだけでしょ?」
ちょっと純粋すぎるだろう、こんな発想しかないなんて?
こんな初心で男が23年も生きてきたなんて、奇跡じゃないだろうか?
そんな初心な恋人は最高に可愛い、けれど心配が絶えない、このまま機動隊入隊は困る。
機動隊は同性の男だけの部署で当然独身寮に入る、おそらく男子校体育会系の雰囲気だろう。
そういう空気では普通にふざけるだろうし、男同士気楽にセクシャルな冗談だってするかもしれない。
そんなの周太は百年経っても無理だろう?
そんな冗談は周太には通じない、それなのに騙されて「身体検査」でもされたら困る。
そんな事態になったら自分が何しでかすか自信が無い、全力で犯罪デッドラインを犯すだろう。
そうしたら本当に困ってしまう、そんな困ったに佇んでいると、無垢な恋人は納得したよう微笑んで質問してくれた。
「ね?面白がって身体検査って、学校のトレーニングルームでしたみたいなこと?…英二、背筋力すごかったね?」
それは「体力測定」ですよ、天使さま?
「いや、あれとも違うよ、」
「そうなの?…じゃあなにするの?」
本当に解からない、そんな途惑いが首傾げこんでいる。
その貌は薄紅の酔いがすこし残って、清楚な艶にまた心惹きこまれそう。
こんな容子を自分の知らない所でされて「身体検査」されたら嫌だ、絶対にそれは嫌だ。
見られるのも嫌だ、触られるのも嫌だ、なんかされるの全部が嫌だ、そんなこと赦せない嫌だ。
―もういっそ、俺が「面白がって身体検査」して教えちゃおうかな
心の「嫌だ」の連発に、自分の願望が嬉しそうに微笑んだ。
そんなこと誰にもしたこと無いけれど、この恋人にはしてみたい?
そんなこと変態だと思うけど、これで理解して自衛に努めてくれたら一挙両得だろう。
「じゃあ周太?面白がってする身体検査、今から教えてあげる、」
もう心配なままに今、自分の嗜好も満足させてしまえばいい。
そんな決断に英二は実地教育へと微笑んだ。
(to be continued)
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secret talk9 愛逢月act.1―dead of night
蛇口を閉じて、水音が止まる。
洗って籠に並べた皿にランプの光艶めいて、主夫の端正な性質が慕わしい。
いつもながらの丁寧な手並みに見惚れてしまう、そんな婚約者に英二は微笑んだ。
「周太は片づけも綺麗だな、料理が巧いだけじゃないね、」
「ん、ありがとう…今夜は、なにがいちばんおいしかった?」
気恥ずかしげに微笑んで訊いてくれる、その貌がすこし赤い。
夕食に楽しんだワインの酔いが名残らす、その清楚な艶に見惚れてしまう。
こんな貌は嬉しそうで幸せそうで、そして今、まだ結構酔っているかもしれない?
―周太?その質問は食べてる時もしたよ?
心の声に笑ってしまう、こんな可愛い質問くりかえす酔い方が可愛すぎる。
こんな酔っ払いなら歓迎だな?嬉しくて英二は答えを繰り返した。
「今日は魚が旨かったよ、野菜やムースと重ねたやつ、」
「ん、ミルフィーユ仕立てのサラダだね?…和風にしてみたんだけど、えいじは和風すきだね?」
嬉しそうに笑って答えてくれる、笑顔が可愛い。
笑顔の頬に透ける薄紅が綺麗で、惹かれるまま英二は恋人の頬にキスをした。
そっと離れて笑いかける、その笑顔に幸せな薄紅色がほころんだ。
「きすしてもらっちゃった…うれしいな、だいすき、」
うれしいのはこっちです。
そんな笑顔で「だいすき」なんて、こっちこそ大好きです。
どうしよう、こんなの可愛すぎる、今すぐ色々したくなる、跪きたい。
でも時計はまだ20時、今から色々したら周太の体力が保たないかもしれない?
―疲れさせ過ぎて具合悪くするの、嫌だな?明日もデートしたいし、
明日もお互い一日自由に使える、だからまたデートしたい。
やっぱり疲れ過ぎたら困るな、そんな考えに奴隷モードから少し脱け出した。
脱け出した分だけ理性を取り戻して、英二は婚約者に微笑んだ。
「俺も周太のこと、大好きだよ?」
「ほんと?…うれしいな、もっと好きになってね?」
ほら、そんな笑顔でそんなこと言ったらダメですって。
やっぱり色々したくなる、こんな早い時間からは困るのに?
こんな時間から始めたら、自分の体力が保つまま朝まで好き放題するに決まっている。
そうしたら君のこと疲れさせ過ぎるのに?そうしたら明日はデートなんか出来なくなってしまう。
―ちょっと、勉強でもして真面目になろう
これは冷静になるために一番良い考えだろう。
それに異動が決まった以上、早く周太に教えた方が良い。
そう考えを纏めて英二は、無垢の癖に艶っぽい婚約者へと提案をした。
「周太、銃創の資料を持って来たんだ。すこし勉強しようか?」
「ん、勉強したい。ありがとう、英二、」
提案に恋人の背すじが伸ばされて、エプロンを外してくれる。
きちんと畳んで、いつもの場所に置くと黒目がちの瞳が笑いかけてくれた。
「はい、上に行きましょう…せんせい?」
なにこれ可愛い、敬語で「せんせい」ってなんですか?
こんな呼び方されたら、そういうプレイとか思いそう?
ただでさえ童顔小柄で稚くて、青年というより少年と言う方が似合うのに?
―楽しい妄想が始まりそうだ?
真面目になって冷静になる、そのために勉強しようとしたのに?
これではまるで逆効果、しかも今はそれどころじゃない筈なのに?
そんな考え廻らしながら階段を上がって部屋に行くと、英二は自分の鞄を開いた。
―真面目にならないとダメだ、大切な勉強なんだから
心に現実を描き、冷静が心に戻ってくる。
そして1通の茶封筒と小さい紙袋を取出し、勉強家の恋人へと笑いかけた。
「周太、この封筒に銃創の応急処置について、実例の資料が入ってるから。擦過射創だけど、参考になるよ、」
「え…よく見つけられたね、英二?」
驚いたよう見上げてくれながら、封筒を受けとってくれる。
封筒から出して真剣な瞳で読んでいく、そしてまた見上げて周太は綺麗に微笑んだ。
「ありがとう、英二。すごく解りやすいね?」
「よかった、役に立つのなら、」
答えながら密やかに溜息こぼれてしまう。
出来ればこの知識が役に立つことない方が良い、そんな願いが起きあがる。
この「銃創」の知識が役立つ時、それは周太が銃弾の飛ぶ「死線」に立つ時だから。
―どうか任期が無事に過ぎてほしい、
そんな祈りに見つめる恋人は、大切そうに資料を封筒へ戻してくれる。
きちんと自身の鞄にしまって、それから黒目がちの瞳は英二を見上げて質問してくれた。
「ね、英二?銃創の応急処置だけど、せいりちゅうの意味とたんぽんが何か教えて?…家に帰ったら教えてくれるって言ってたよね?」
ちゃんと憶えていたんだな?
そんな心の声に笑ってしまう、質問内容が23歳男性と思えなくて。
けれど質問する意図が切なくて痛ましい、今朝に下された内示への覚悟を見つめてしまうから。
「そうだったな、教えるよ?おいで、周太、」
「ん、」
笑って英二は、今度は紙袋から箱を出した。
それを見つめて首傾げた周太に、すこし悪戯っ子に微笑んだ。
「周太、どうやって子供作るか、解ってる?」
「ん?…結婚すれば良いんでしょ?」
首傾げたまま黒目がちの瞳が瞬いて、英二を見つめてくれる。
どうしてそんなこと訊くのかな?そんな貌で周太は答えてくれた。
「男のひとと女のひとが結婚すると、ちょうど良い時にお母さんのお腹に赤ちゃん、出来るんだよね?それで生まれるんでしょ?」
そんな自然発生だと思ってたんだ?
その発想が可愛くて笑ってしまう、想像通りだと可笑しくて仕方ない。
やっぱり知らなかったんだな?そんな納得と笑っていると、不思議そうに訊いてくれた。
「なんで、そんなに笑うの?…なんか違うの?」
「周太、俺が学校の寮を脱走した理由、憶えてる?」
笑いながら訊いた質問に、黒目がちの瞳が大きくなる。
あのとき「妊娠した、死にたい」と女に狂言をされて英二は脱走した、それを周太は知っている。
けれど周太にとって「結婚→自然発生で妊娠」という図式なら、あの狂言をどう解釈しているのだろう?
どんな答えになるか楽しみで見つめた視界の真中で、周太は困った顔になって訊いてくれた。
「あの…もしかしてえいじ、けっこんしてたの?」
やっぱり君は、天使だね?
本当に何も解っていない、そんな現実が可愛くて可笑しくて、愛しい。
まさかそっちの発想が出るなんて、思わなかった。あくまで子供は「結婚」前提で、生々しい発想がゼロでいる。
そして心が傷みだす、こんな稚い初心な周太が向かう8月の現実に、また覚悟が熱く固まっていく。
そんな覚悟を見つめ、笑いながら英二は箱を開くと説明書を取出した。
「安心して、周太。俺は結婚するのは、周太が初めてになるから、」
説明書を広げながら、黒目がちの瞳へと笑いかける。
その瞳は尚更に不思議そうになって、無垢なままに訊いてくれた。
「そうなの?…じゃあ、どうして妊娠したって言われて、真に受けちゃったの?」
「今から、その説明もしてあげるよ。おいで、周太」
笑ってデスクの上に説明書を広げると、スタンドライトのスイッチを引いた。
それを覗きこんだ黒目がちの瞳に微笑んで、英二はストレートに事実を告げた。
「子供はね、セックスすると出来るんだよ?それで女の人の場合は、ここに入れるんだ。でもこれ、周太には無いだろ?男には無いんだ。
だから男同士だと子供が出来ないんだよ。それで生理っていうのは、ここが赤ちゃんを育てるために貯めた血液を、月一で排出するんだ。
そのとき出血する血液とかを吸わせるのに使うのが、タンポンなんだよ。銃創も出血が多いだろ?だから、これを応急処置に使うんだ、」
説明書を指さしながら実物を1つ取り出し、使い方を見せて英二は隣の貌を見た。
その貌は赤くなって、困ったよう黒目がちの瞳が羞んだ。
「ん…よくわかりました…ありがとうございます、せんせい」
その「せんせい」ときめきます。
教えた内容が子作りで、それに少年みたいに羞んだりして?
こんなの「美少年に性のレッスン」ってやつみたい、なんかそんなAVありそうだ?
このまま本当にレッスンしたくなりそう、まだ色々していないこと本当は教えてみたいし?
今夜レッスンしても許される?そんな妄想の暴走が楽しいけれど、我ながら可笑しくて英二は笑った。
「解かったなら良かった、これ、あげるよ?でも誤解されないように、気を付けてな?」
笑いかけて説明書を箱ごと渡すと、素直に受け取ってくれる。
一緒に渡した紙袋に入れながら、また周太は不思議そうに訊いてくれた。
「ね、誤解ってなんの?」
また解からないのですね、あなたさまは?
本質的に聡明な周太、けれどこの手の事は全くの奥手でいる。
その上こんな少年の容貌では、少年趣味にとったら恰好の餌食にされそうで怖い。
こんな初心で本当に大丈夫だろうか?色々と心配になりながら英二は、婚約者に少し教育を始めた。
「これは生理用品って言って、普通は女のひとだけが使うんだよ?だから持ってると、周太が女の子だって誤解を受けるよ、ってこと、」
「あ…そういうこと?でも俺、普通に男だと思うけど…だってさっきのとこないとおもうし、」
「本当は男でも、誤解するやつもいるよ?しかも機動隊は男だらけだろ?わざと誤解して面白がるヤツもいるかもしれない、」
「面白がるくらいなら良いんじゃない?…気にしなければ平気だよ?」
「だからね、周太?面白がって、身体検査とかされたら困るだろ?」
そんなことされたら、本当に困る。
心底そう思った英二へと、不思議そうに黒目がちの瞳が微笑んだ。
「身体検査って、困るの?…身長とか計ったりするだけでしょ?」
ちょっと純粋すぎるだろう、こんな発想しかないなんて?
こんな初心で男が23年も生きてきたなんて、奇跡じゃないだろうか?
そんな初心な恋人は最高に可愛い、けれど心配が絶えない、このまま機動隊入隊は困る。
機動隊は同性の男だけの部署で当然独身寮に入る、おそらく男子校体育会系の雰囲気だろう。
そういう空気では普通にふざけるだろうし、男同士気楽にセクシャルな冗談だってするかもしれない。
そんなの周太は百年経っても無理だろう?
そんな冗談は周太には通じない、それなのに騙されて「身体検査」でもされたら困る。
そんな事態になったら自分が何しでかすか自信が無い、全力で犯罪デッドラインを犯すだろう。
そうしたら本当に困ってしまう、そんな困ったに佇んでいると、無垢な恋人は納得したよう微笑んで質問してくれた。
「ね?面白がって身体検査って、学校のトレーニングルームでしたみたいなこと?…英二、背筋力すごかったね?」
それは「体力測定」ですよ、天使さま?
「いや、あれとも違うよ、」
「そうなの?…じゃあなにするの?」
本当に解からない、そんな途惑いが首傾げこんでいる。
その貌は薄紅の酔いがすこし残って、清楚な艶にまた心惹きこまれそう。
こんな容子を自分の知らない所でされて「身体検査」されたら嫌だ、絶対にそれは嫌だ。
見られるのも嫌だ、触られるのも嫌だ、なんかされるの全部が嫌だ、そんなこと赦せない嫌だ。
―もういっそ、俺が「面白がって身体検査」して教えちゃおうかな
心の「嫌だ」の連発に、自分の願望が嬉しそうに微笑んだ。
そんなこと誰にもしたこと無いけれど、この恋人にはしてみたい?
そんなこと変態だと思うけど、これで理解して自衛に努めてくれたら一挙両得だろう。
「じゃあ周太?面白がってする身体検査、今から教えてあげる、」
もう心配なままに今、自分の嗜好も満足させてしまえばいい。
そんな決断に英二は実地教育へと微笑んだ。
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