天涯より、
皐月三日、水芭蕉―immortality
深い高い青、その道。
ことり敲く木道、ふわり頬が涼む。
「まだ冷たいな、」
肌ふれて冴える風、見わたす尾根に銀色のぞく。
高峰まだ雪の時間、そんな道たどる風かすかに渋く甘い。
『遠くから来たんだね、あったかいうちどうぞ?』
雪嶺の風なぞる声、記憶あわく匂いたつ。
あわい湿度ふくんで渋く甘い、この風に春が雪解ける。
「よっ、」
とんっ、木道の裂け目ひとつ跳ぶ。
星霜に朽ちたのだろう、そんな板底を清流きらめく。
この水たどれば辿りつける、あの春と同じ道は早緑まばゆい。
「きれいだな、」
声の唇あわく冷たく薫る、雪まだ風匂う。
あまい渋い風馳せてゆく、風ゆらす梢からから澄んで鳴る。
この音も香も変わらない、ずっと歩きたかった道を踏んで水が香った。
「あった…」
泉のほとり、星霜つもる小屋。
ダークブラウン深い木目なつかしい、屋根の色すこし褪せたろうか。
それでも窓のガラスあざやかに青映る、あの歳月また見つめて戸口くぐった。
「こんにちはー」
呼びかけた小屋の壁、青空の山嶺が窓光る。
まるで絵画みたいだ、あのころと同じ想いに声が返った。
「はーい、」
穏やかに澄んだ声まだ瑞々しい。
変わらない響きの真中さらり、バンダナに包んだ黒髪ゆれた。
「ちょっとお待ちください、すぐ行きまーす!」
ことことん、登山靴かろやかに響いてくる。
変わらない足音のままエプロン姿が微笑んだ。
「お待たせしました、ご予約されていますか?」
「はい、」
肯いたカウンター越し、赤いバンダナ零れる髪が光る。
やわらかな黒髪は変わらなくて、けれど光る三筋の銀色に微笑んだ。
「十年ぶりに予約しました、お元気でしたか?」
※加筆校正中
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5月3日誕生花ミズバショウ水芭蕉
皐月三日、水芭蕉―immortality
深い高い青、その道。
ことり敲く木道、ふわり頬が涼む。
「まだ冷たいな、」
肌ふれて冴える風、見わたす尾根に銀色のぞく。
高峰まだ雪の時間、そんな道たどる風かすかに渋く甘い。
『遠くから来たんだね、あったかいうちどうぞ?』
雪嶺の風なぞる声、記憶あわく匂いたつ。
あわい湿度ふくんで渋く甘い、この風に春が雪解ける。
「よっ、」
とんっ、木道の裂け目ひとつ跳ぶ。
星霜に朽ちたのだろう、そんな板底を清流きらめく。
この水たどれば辿りつける、あの春と同じ道は早緑まばゆい。
「きれいだな、」
声の唇あわく冷たく薫る、雪まだ風匂う。
あまい渋い風馳せてゆく、風ゆらす梢からから澄んで鳴る。
この音も香も変わらない、ずっと歩きたかった道を踏んで水が香った。
「あった…」
泉のほとり、星霜つもる小屋。
ダークブラウン深い木目なつかしい、屋根の色すこし褪せたろうか。
それでも窓のガラスあざやかに青映る、あの歳月また見つめて戸口くぐった。
「こんにちはー」
呼びかけた小屋の壁、青空の山嶺が窓光る。
まるで絵画みたいだ、あのころと同じ想いに声が返った。
「はーい、」
穏やかに澄んだ声まだ瑞々しい。
変わらない響きの真中さらり、バンダナに包んだ黒髪ゆれた。
「ちょっとお待ちください、すぐ行きまーす!」
ことことん、登山靴かろやかに響いてくる。
変わらない足音のままエプロン姿が微笑んだ。
「お待たせしました、ご予約されていますか?」
「はい、」
肯いたカウンター越し、赤いバンダナ零れる髪が光る。
やわらかな黒髪は変わらなくて、けれど光る三筋の銀色に微笑んだ。
「十年ぶりに予約しました、お元気でしたか?」
※加筆校正中
水芭蕉:ミズバショウ、花言葉「変わらぬ美しさ、美しい思い出」
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