萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

soliloquy,Lettre du future 風花―another,side story「陽はまた昇る」

2013-01-13 23:51:17 | soliloquy 陽はまた昇る
風に舞う夢、5年後から 



soliloquy,Lettre du future 風花―another,side story「陽はまた昇る」

ふわり、空から白銀が舞い降る。

青い空、けれど雪のかけらは風ひるがえし次々と降る。
高く澄みわたる蒼穹に白銀きらめく、その一片が掌に舞い降りた。

「見て?風花だね、」

嬉しくて笑って見せた掌に、少年は首傾げこんで覗きこむ。
青い毛糸の手袋に雪の花は輝く、はかなく強い冬のかけらへと少年は瞳を瞬いた。

「これ、かざはなって言うの?雪じゃないんだ?」
「ん、積もった雪がね、風で飛ばされたものを風花って謂うんだ…花びらみたいでしょ?だから風に花って書くんだよ、」

笑いかけた先、少年は熱心に風花を見つめている。
その横顔に大切な面影を見て、なにか温かな想いに微笑んだ。

…血は繋がらなくてもね、同じご飯を一緒に食べてると似てくるのかな?本当の家族みたいに、

心の独りごと想いながら、ふっと、もう1つの俤が少年の空気に重なった。
いま見つめていた面影と似ていて、全く違う人がまとう不思議な雰囲気が少年にある。
そんな共通点を見つめる隣、山風のおろしに少年のマフラーがほどけて青空に舞い上がった。

「あ、…」

ちいさな声をあげ、腕を伸ばして紺色のマフラーを掴む。
風に舞う温もりを手にして微笑むと、少年の前に屈みこんで笑いかけた。

「ちょっと風が強いね?…ほどけにくい様に巻き直してあげるね、」
「うん、お願いします。あの、」

何て呼ぼうかな?
そんな途惑いと羞みが、冷たい風の紅頬に可愛らしい。
まだ幼い笑顔、それなのに大人びてしまった途惑いが傷んで、けれど穏やかに答えた。

「俺のこと、好きなように呼んでね?名前で呼んでくれても良いし、」
「じゃ、…兄さん?」

自分を兄と呼んでくれるの?

なんだか面映ゆくて、けれど素直に嬉しい。
一人っ子の自分にとって兄弟たちが呼び合う姿は羨ましかった。
それをこの少年は、自分に求めてくれるのだろうか?マフラーを巻いてやりながら質問と微笑んだ。

「あのね、俺のことお兄さんって呼びたいの?」
「うん、」

素直に頷いてくれる白皙の貌は、紺色のマフラーが映える。
透けるよう明るい瞳が愉しげに笑って、率直に言ってくれた。

「俺ね、兄さんって憧れていたんです、ひとりっこで親戚もいないから。だから、そう呼びたいんだけど良い?」

一人っ子で親戚もいない、そんな少年の現実に幼い自分が重なり合う。
この孤独から見つめる願いはきっと、自分たちは同じだろう。この同じに繋がりを見つめ微笑んだ。

「ん、良いよ?俺もね、ひとりっこで親戚とかいないから兄弟って憧れてたんだ…俺たち、同じで一緒だね?」

同じで一緒、だからきっと自分たちは大丈夫。
そう確信を想いマフラーを巻き終えて、笑いかけた先ふわり馥郁が香った。

…この香、って?

よく知っている、あまくて優しい清雅な香。
香の俤に微笑んで、見つめた少年の瞳は幸せに笑っていた。






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