萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk80 安穏act.17 ―dead of night

2018-04-11 21:48:12 | dead of night 陽はまた昇る
知らない安閑に、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk80 安穏act.17 ―dead of night

ワイシャツの袖まくった腕、自分の臆病がおかしい。

「宮田…どうぞ、」

ことん、

コーヒーカップひとつ、ほろ苦く甘く香る。
くゆらす芳香おだやかなダイニング、素直に笑った。

「ありがとう湯原、いい香だな?」
「…そう、」

短い言葉そっけない。
けれど無視じゃない香に口つけた。

「…うまい、」

こぼれた声ゆるやかに香る。
あまい深い苦み澄んで、やわらかな唇ほころんだ。

「湯原のコーヒーすごく美味いな、淹れ方のコツあるんだろ?」

いちばん美味しいかもしれない?
記憶たどる芳香のテーブルむこう、マグカップひとつ座った。

「いつも淹れてるだけ…だから」

かたん、

ダークブラウン艶やかな椅子に半袖シャツ座ってくれる。
クセっ毛やわらかな黒髪に窓の陽あかるい、そんな差し向かいに声が出た。

「エプロン似合うな、」

水色ストライプ明るいエプロン、半袖シャツ涼やかな腕。
警察学校とは違いすぎる姿で黒目がちの瞳がにらんだ。

「悪い?」
「なんで?」

訊き返しながら楽しくなる。
だって無視じゃない、そんな視線に笑いかけた。

「エプロン似合うから悪いってないだろ、なんでそんなこと言うんだよ?」

つっかかる君、その貌もうすこし見てみたい。
芳香ゆるやかなテーブル、すこし厚い唇ひらいた。

「宮田こそなぜ?」
「質問に質問返しかよ、」

笑いかけて唇、コーヒーが香る。
ほろ苦い甘い香すすりこんで、黒目がちの瞳に笑いかけた。

「エプロン似合うのってさ、やさしい空気でいいなって想ったから、」

もし、自分もそんな空気に生まれていたら?
そんなこと想うほど未知の時間、エプロンの首すじ朱い。

―かわいいな、

すなおな感想が鼓動たたく、ほら?もう手遅れかもしれない。
こんな本音も知られたら?あわい不安に訊かれた。

「あの…宮田こそなぜ、着替えないんだ?」

その質問ちょっと困るな?

※校正中
secret talk79 安穏act.16← →secret talk81
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村 blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

卯月十一日、矢車菊―delicacy

2018-04-11 11:00:20 | 創作短篇:日花物語
窓からの憧憬、
4月11日の誕生花


卯月十一日、矢車菊―delicacy

ゆらり、ほら?窓ゆれる。

「いた、」

見あげる窓に笑って木洩陽きらめく。
瞳まばゆく細めた目もと温かい、麗らかな陽ざしガラスはじく。
透る光の先ただ見つめたくて、細めた視界にダークブラウン揺れた。

「あ、」

かたん、

窓枠ゆっくり古木が軋む、ガラスの反射そっと開く。
ダークブラウンの艶きらり波うって、白い顔ふわり覗いた。

「…、」

繊細な唇ちいさく笑う、でも聞こえない。
何を言ってくれたのだろう?ただ嬉しくて笑いかけた。

「おーい、おはよっ、」

右手いっぱい伸ばし振って、指さき陽に透ける。
透ける朱色きらきら青い空、ひらかれた窓ゆれるダークブラウン微笑んだ。

「はーい、おはよう?」
「うんっ、」

うれしくて笑いかけて、窓ちいさな笑顔おだやかに傾げる。
その頬やわらかに薄紅きれいで、あかるい朝に笑いかけた。

「今朝は元気そうだねーっ、ガッコ行けそう?」

今日はいい天気、体調もいい?
期待と笑いかけて、けれど繊細な唇そっと言った。

「行きたいけど…ごめんね、」

二階の窓ちいさな声が透ける。
声のまま透けそうな瞳が自分を見つめて、そんな年上の少女に笑った。

「僕もねー今日はガッコ行かないんだーっ、だからオジャマしていい?」

きっと忘れているだろうな?
楽しくて笑った空、朝陽うららかな窓そっと明るんだ。

「行かないって…どうして?」

ほら忘れているんだ?
こんな忘れんぼに可笑しくて笑った。

「今日、ガッコの創立記念日だよー卒業して忘れちゃったー?」

先に卒業してしまったひと、だから忘れたのだろうか?
なんだか愉快で見あげる窓、白い繊細な笑顔ほころんだ。

「忘れちゃってた私…たった1年前なのに、おかしいね?」

笑ってくれる繊細な唇、でも透けるような瞳が寂しい。
それでも華奢な首すじ薄紅きれいで、逢いたくて左手を掲げた。

「おみやげ作ったんだよーそっち行っていい?」

笑いかけて左の手、青い花冠きらめく。
どうか喜んでくれる?掲げた花にソプラノ透った。

「きれい、どうしたの?作ってくれたの?」

訊いてくれる瞳きらきら明るむ、喜んでくれている?
まだ着けない高い窓あおいで笑った。

「ばーちゃんに教わって作ったんだーうまくないけどがんばったからっ」

よくみたら不格好、でも花は青色きらめく。
そうして青空まばゆい窓、青い花に笑顔は咲いて?


心温まる生活100ブログトーナメント
矢車菊:ヤグルマギク、花言葉「繊細、優美、上品、優雅」

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

卯月十日、三色菫―think of me

2018-04-10 23:58:00 | 創作短篇:日花物語
想い重ねて、
4月10日の誕生花


卯月十日、三色菫―think of me

さんしきすみれが咲いた、紫色。

「何度目かな、」

見つめる色あざやかに深く暗い。
夜更けるごと真紅深まる、赤色ふかく沈んで変容する。
もう誰も起きてなどいない、そんな真夜中ゆるく芳香なでる。

「匂うのはビオラ、だったよな…」

ひとりごと香り甘い。
この香いくど辿って想うだろう、遠い横顔。
なつかしい声、慕わしい愛しい古い、まぶしい時間の匂い。


三色菫:パンジー、花言葉「私を思って、記憶、思い出、陽気さ」紫色のパンジー「You occupy my thoughts 私の想いはあなたで満ちる」

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弥生花、薄紅の滝で

2018-04-08 23:24:04 | 写真:花木点景
紅あわい木洩陽、枝垂桜の春。
聞いてください24ブログトーナメント

春の嵐に桜ひといき、若葉の神奈川です。
撮影地:枝垂桜@神奈川県2018.4

にほんブログ村 写真ブログ 山・森林写真へにほんブログ村 blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

secret talk79 安穏act.16 ―dead of night

2018-04-07 23:34:12 | dead of night 陽はまた昇る
安穏の窓で、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk79 安穏act.16 ―dead of night

家、それだけで違う。
どうして?

「…」

いつもの無口がクロゼット開く。
小柄なワイシャツが背を向ける、すこし小さな指が衿もとボタン外す。
あわい衣擦れベルト抜かれる、スラックスのウエスト露わに細い。

きっと次、すこし小さな指がファスナーにふれる。

「湯原、トイレ借りるな?」

笑いかけて眼を逸らして、扉を開いて廊下きらめく。
ダークブラウン濃やかな床ふんで、かたん、背に扉を閉じて息つける。

「…っ」

喉が唾を呑む、こんな自分は浅ましい?
そんな自責ごと呑みくだした願い歩いて階段、座りこんだ。

「…あぶなかった、俺、」

ひとりごと零れて3秒前、見てしまった本音うずく。
君の着替えを見てしまったから?

―警察学校でいつも見てるだろ俺、なんで今こんな?

警察学校の寮生活、風呂場で更衣室でいつも見ている。
でも二人きり着替えするなんてことは無かった。

「…無防備すぎるだろ、」

つぶやいて鼓動そっと息をつく、ため息ふかく痛い。
だってこんなの滑稽だ?

―男同士だから湯原も脱ぐんだ、普通に…男同士だから気にしない、

ただ「普通」に、それだけ。
それだけが自分はもうできない、もう「普通じゃない」のは自分だ?

「バカだな…俺、」

声ひそやかに階段あわく響く。
誰も聞いてなんかいない、けれど声の唇そっと薫る。
ほろ苦い深い、おだやかで密やかな香くすぶって甘い。

―書斎の匂いだ…古い紙と本と、花の匂い、

さっき立入った香くすぶる、ほろ苦くて深い甘い。
この匂い好きだ、でも今はファスナーの自責ずきり疼かせる。

“憧れたくなる雰囲気だな”

そう感じた写真の香が疼かせる、浅ましい本音を絞め殺す。
あの写真の微笑なにを自分に想うだろう?
君の肌を見つめたがる、そんな自分を。

※校正中
secret talk78 安穏act.15← →secret talk80
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弥生花、鬱金に透ける

2018-04-06 19:03:31 | 写真:花木点景
帰り道、鬱金桜が咲いてました。
でも御衣黄との交配種かもしれません、花びらに緑ラインが入っている+近くに御衣黄が植えられていたから。


御衣黄は緑→黄色→薄紅と変色するんですけど、特徴は葉緑体の緑ラインが花びらに見られること。
咲き初めカナリ黄緑色+花がやや小さめ、なので開花したての今は見分けがつきやすいです。
で・今日に見た花は咲き初めも淡黄色+葉色から鬱金桜寄りかなあ?と。
でも鬱金桜みたいな花色の御衣黄もあるのでアイマイモコです、笑

なんて思案ヨソに放り投げて空、夕青に淡黄さわやかに映えます。


鬱金桜は黄色→白→薄紅と変色します。
撮影地:鬱金桜ウコンザクラ(たぶん)@神奈川県2018.4

季節の彩り 90ブログトーナメント
にほんブログ村 写真ブログ 山・森林写真へにほんブログ村 blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

secret talk78 安穏act.15 ―dead of night

2018-04-05 11:05:00 | dead of night 陽はまた昇る
静謐ふれて、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk78 安穏act.15 ―dead of night

真鍮製おだやかな鍵、かちり、開かれる。

「あがって、」

そっけない、でも冷たくない声かけられる。
その横顔かすかに耳もと赤くて、つい英二は微笑んだ。

―照れてるのかな、湯原?

実家に誰かを招く、そういうことは「気恥ずかしい」のかもしれない?
そんな薄紅色も自分とは違う横顔と玄関くぐった。

「おじゃまします、」

踏みこんだ頬、おだやかな香ふれる。
革靴そろえた三和土の石色が深い、経年やわらかな玄関ホールに英二は立った。

―いい家だな、

ダークブラウン深い床木目、窓ふる樹影が艶やめく。
やわらかな色調シンプルな壁、窓枠に扉にめぐらす幾何学おだやかな彫刻。
派手ではない、けれど丁寧な造りだと自分でも解る。

―時間が積もってるって、こういうのかな、

ふるい時が積もる、そんな空間のかたすみ花が白い。
純白やわらかな花にライトグリーンの葉みずみずしい、きれいで隣に微笑んだ。

「さっき庭で咲いていた花だよな、なんて名前?」
「夏椿、」

いつもの短い答え、でも温もり灯る。
こういう会話が好きなのだろうか?もうすこし続けたくて笑いかけた。

「なつつばき、夏に咲く椿ってことか?」
「花が似てるだけ、」

また短い答え、でも少し長くなった。
この話題が好きなのかもしれない、そんな横顔に微笑んだ。

「山で咲いてそうだよな、」

山で、なんか去年の自分なら思わない。
けれど今夏に知ってしまった場所、その光彩が一輪に映る。

ほろ苦い甘い風、頬ふれる水の気配、足もと光る樹影、ゆれる草の色。
ときおり輝く極彩色、かすかな馥郁は花の気配、それから頭上はるかな梢と雲。

―ああいうところで生きたいな俺、ずっと、

ほら、もう願っている。
こういう望みは去年まで知らない、でもこの夏に知ってしまった。
だから望みを叶える手段たどっている、そんな想いに静かな声が言った。

「…奥多摩でも咲いてるから、」

さっきより穏やかな声、それに温度すこしだけ。
いつもと違いはじめた声に笑いかけた。

「湯原よく知ってるんだな、奥多摩で見たのか?」

このまま話続けてほしい、君に。
願い笑いかけて、けれど黒目がちの瞳ゆっくり瞬いた。

「…わからない、」

静かな声、けれど瞳かすかに揺らぐ。

―とまどってる湯原?

静かだけれど揺れる、そんな声に視線に不思議になる。
本当に「わからない」のだろう、でも、なぜ「自分のことが解らない」?

「上、行く、」

ぽつん、短い言葉が階段のぼりだす。
ダークブラウン艶めく木目かすかに軋む、その背中スーツ端正なのに儚い。

―抱きしめたい、よな…俺?

ステンドグラス降る光、華奢な横顔が昇ってゆく。
あの背中を抱きとめてしまいたい、ぜんぶ自分の腕に包みこんで受けとめたい。

受けとめたい、なんて想ったことなかったのに?

「宮田?」

呼ばれて視界の真中ふりむいてくれる。
見つめてくれる、けれど瞳は前髪の波に隠れされて見えない。

「ごめん、考えごとしてた、」

笑いかけた階段、ダークブラウン一段踏む。
古材かすかに軋んで時間がふる、この音を聴いて君は育ったのだろう。

―階段の音にまで俺、知りたくなってる?

足の底かすめる音、こんな小さな音にも君を知りたい。
そんな一段ごと昇った二階、磨きぬかれた廊下に陽ざし艶めいた。

―きれいだな、この家は、

古い家、その時間が温度やわらかに清々しい。
薫るような端正どこも美しくて、住んでいる人柄が偲ばれる。

―やさしい穏やかな人なんだろうな、湯原のお母さん…母さんとは違って、

うつくしい優しい家、それが差を思い知らす。
自分が抱きしめたい横顔は自分にとって異世界の人、そんな現実の扉が開いた。

「ここが俺の部屋、」

扉ひらいてくれる手はすこし小さい。
けれど自分より温もり知っている横顔に微笑んだ。

「あ、はい、」

あれ、こんな返事を自分がするんだ?
我ながら固いぎこちない台詞おかしくなる、それでも小さな緊張と部屋に入った。

―あかるいな、

甘い香かすかな陽光、アイボリーの壁あかるく部屋を満たす。
ちいさな手がカーテンひいて、窓やわらかなガラスに木洩陽きらめいた。

「明るい部屋だな、」

感想とカバン置いた床、木目なごやかに艶めく。
磨かれた床のべられた小さな絨毯、木枠おだやかなベッド、磨かれたライティングデスクと椅子。
簡素だけれど丁寧な造りの家具たち美しい、けれど意外なほど小さな書棚に問いかけた。

「湯原の本、これだけなのか?」

意外だ、これしか君の本がないなんて?
予想外たたずんだ部屋、かすかな甘い香が答えた。

「そうだけど、」
「意外だな、」

本音そのまま声になった唇、香かすかに甘い。
さわやかな甘さ鼓動そっと傷んで、それでも微笑んだ。

「原書で読むくらいだから湯原、もっと原書の本を持っていると思ってさ。意外だなって、」

本の虫、そう思っている。
それなのに小さすぎる書棚の部屋、ジャケット脱ぎながら静かな声が言った。

「それ俺の本じゃないから、」

答えてくれる横顔、ジャケット丁寧にハンガー吊るす。
手慣れた仕草に英二もジャケットを脱いだ。

「じゃあ湯原、図書館で借りてた?」
「違う、」

ネクタイ外しながら答えてくれる、短いけれど。
もっと話してくれたらいいのに?いつもの願いにハンガー手渡してくれた。

「つかって、」
「ありがと、」

短い応答に吊るしたジャケット、小さな手が受け取ってくれる。
その指先なにげなく襟ふれて、整えられた皺に鼓動はずんだ。

―なんか新婚さんみたいだよな、こういうの?

脱いだジャケットを整えてもらう。
それがただ嬉しくなる、こんな単純に我ながら呆れてしまう。

―男同士で新婚もなにもないだろ俺?

結婚できない、だから認めたくない逃げている。

―警察官で同性愛とかまずいだろ、俺はよくても…湯原は、

立場、地位、そんなすべて自分はどうでもいい。
どうでもいいから警察官になった、すべて「捨てたい」から選んだ。
捨てるためにはむしろ「まずい」都合いいかもしれない?けれど君はそうじゃない。

―警察官になる理由があるんだ湯原は、この家も…じゃましたくない、

君には理由がある、この美しい家もある。
どれも捨てたいなんて思わないだろう、だから自分の感情を認められない。

―ぜんぶダメなんだ、さわりたくても抱きしめたくても…湯原だけは、

君だけは触れられない。

触れたい抱きしめたい、その想いの分だけ触れられない。
こんなふう何度いくつ噛みしめたら、傷んだら、この想い消えるのだろう?
ほろ苦い自覚たたずんだ前、おだやかな声すこし笑った。

「来いよ、」

そっけない短い言葉、でもすこし笑ってくれる。
こんな「すこし」に鼓動また揺らされて、華奢なワイシャツの背を追いかけた。

「ここ、」

短い言葉かちり、隣室の扉が開かれる。
あわい闇しずかに視界ふさぐ、かすかな冷気ほろ渋く甘く頬ふれる。
重厚ただよう香よく知っている、記憶の匂い踏みこんだ薄闇にカーテンひらいた。

「あ、」

晩夏の光、整然と背表紙つらなる。
埋めつくされた書棚の壁に声こぼれた。

「すっげえ…」

個人の蔵書でこんなのは初めてだ?

―どれも読んである、飾りじゃない本棚だ、

ただ「飾り」で本ならべる人種もいる。
そんな人間たちよく知ってる、けれどここは違う。
その背表紙わずかな癖に微笑んだ。

「どの本もよく読まれてるな、湯原すごいな?」

そのすこし小さな手が読んだ、それが一面の書棚を輝かせる。
どれも読んでみたくなるな?想いに穏やかな声が微笑んだ。

「父さんの本なんだ、」

ブラウン深いカーテンの部屋、落ち着いた穏やかな空気が眠る。
木目なめらかな書斎机、彫刻こまやかな書棚、ダークブラウン艶やかな安楽椅子。
やわらかな天鵞絨はつい昨日も座っていたようで、その横顔なぞられて微笑んだ。

「いい部屋だな、俺もこういう部屋にしたくなるよ?」

おちついた穏やかな空気まどろむ、その底に端正たたずむ。
そんな貌になれたなら時間は輝くだろうか?
想い見つめる窓際、横顔すこし笑った。

「ん、」

黒目がちの瞳は前髪ゆれて、でも口もと微笑んでいる。
その少し小さな手が書斎机ふれて、写真立そっと携えた。

「湯原の父さん?」

ダークブラウン深い額縁、誠実な笑顔がある。
その口元よく似た唇がうなずいた。

「ん…」

ことん、写真立しずかに書斎机すわる。
かたわら白い花ゆれて、庭にホールに咲いていた色に面影を見つめた。

―これが湯原の、

すこし厚めな唇が似ている、物言いたげな優しい口もと。
くせっ毛やわらかな黒髪も似ている、意志の強そうな眉もどこか似かよう。
けれど瞳は切長で似ていない、その視線しずかに落着いて勁くて、そのくせ微笑やわらかに優しい。

―なんか憧れたくなる雰囲気だな、困ったな?

ちょっと憧れてしまう雰囲気の人、だから困る。
困る後ろめたい、こんなの自分の浅ましさ思い知らされる。

―立派な人だこの人は、その息子を欲しがってる俺なんだ、

君を抱きしめたい、ぜんぶ。

ぜんぶ求めて求められてみたい、体ごと心ふれて重ねたい。
こんな願いこの人が知ったらどう思うだろう、どんな貌される?
考えるだけ浅ましさ傷んで、けれど君に惹かれてしまう理由がわかったかもしれない。

「かっこいい人だな、」
「…そう?」

ほら君が笑う、君の父親に。
ぎこちない僅かな笑顔、でも温もり優しい。
それだけ幸せな記憶あるのだろう、それだけ君は愛された。

そんな笑顔に写真の面影のぞいて、眩しいぶんだけ傷む。

※校正中
secret talk77 安穏act.14← →secret talk79
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

卯月にて、

2018-04-04 22:21:00 | 雑談
4月4日、転居から40日。

ナンテイウ今日なんですけど、繁忙×早朝から動いたから眠くて、
帰ってきて悪戯坊主にかまって、風呂して洗濯して、かるーく飲むしたくしながら宅急便が届いて、
ソファ寝ころぶ・っていうかキモチイイアナ溶けちゃってるみたいな悪戯坊主ながめながら、DVD観ながら軽く飲んで、

っていう夜は旧居と変わらないんだけど、
前とカナリ違うのは、

帰宅×庭の水やり

っていうワンクッション。
っていうのは旧居の庭×4倍より庭が広くなったからで、
おかげさまで庭木も好きなよーに植えられて、そんなこんなで急に暑い四月に水やり必須。

まだまだ植えちゃうんだろーなー、

なんて思いながら帰宅すぐ庭の水やりは和み時間、笑
なんだか盆栽に凝るジーサマたちの気持ちわかるような気もするし、
盆栽=小さくしちゃう気持ちに「?」って疑問符キモチも湧いてくるし、

デカくして実がなるほうがいいだろに?

っていう疑問符は一般的じゃない?笑
トハイエ実がならない花×幹をたのしむ花木もあるんだけど、
シンボルツリーはやっぱり日本山野の自生種・実がなります、笑

ナンテコト書いていると、

「アレ?ズイブン庭木フヤシテル?」

なんて疑問持つ方いるかもしれませんけど、
オカゲサマデ近所の植木ショップさっそく常連扱いになりました、笑

「アラこんにちはー」
「お庭、木でいっぱいになっちゃいません?」

なんて言われるほど数本既に植樹済みなんだけど、
ツイツイ帰り道に覗くと欲しい木ちょーど値引き処分になってる=買う、っていうルーティンが出来上がってるわけで、
そんな最近めずらしく今日はソコ通っていない×帰りちょっと遅かった・なんて理由で今日は新木を迎えていません、笑

っていうようなノンビリ新居の近所は今、水仙まっさかりの池があります。



ワーズワース“The Daffodils”邦訳「水仙」ってこんなカンジかなー、
とか思ったのと眠たいのでツレヅレくだくだ雑文です、笑
第4回 ライフ ブログトーナメント
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

secret talk77 安穏act.14 ―dead of night

2018-04-03 22:40:00 | dead of night 陽はまた昇る
樹影の夏を、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk77 安穏act.14 ―dead of night

白い花さざめく梢、風やわらかい。

ゆれる木洩日に草花ひらく、涼やかな香が頬ふれる。
そんな玄関への道さそう静謐、そっと英二は息ついた。

「…、」

呼吸そっと薫る、ほろ苦い馥郁やわらかに涼む。
緑あふれる静寂が沁みる、きらめく花しずかに午後を揺らめく。
ひそやかな香ふかく息つける、ただ穏やかな空気に頭上を仰いだ。

「すごい木だな、湯原が生まれた時からあった?」

はるかな頭上、おおらかな天蓋が青い。
のびやかな大樹のもと静かな声が言った。

「…古い家だから、」

ぼそり、短い返事。
けれど冷たくはない声に笑いかけた。

「こういう木がある家っていいな、」

すなおな感想の唇そっと青葉が匂う。
残暑の午後、けれど涼やかな静謐が英二を見あげた。

「…宮田のい…」

黒目がちの瞳が問いかけて、その唇が止まる。
何を訊いてくれるのだろう?見つめて、けれど長い睫そっと逸れた。

「…あしもと気を付けて、飛び石がゆるんでる、」

逸らされた視線しずかに歩きだす、その横顔に木洩日が青い。
言いかけ置き去りのままで、訊きたくて飛石を踏んだ。

「なあ湯原?俺のい、ってなに?」

飛石ゆるんでいない、それなら言葉の続きは?
知りたくて並んだ隣、小柄なスーツ姿は言った。

「なにって…いちばん好きな木はなにかなって」
「俺の好きな木?」

訊き返して隣、クセっ毛やさしい黒髪ゆれる。
穏やかに艶めく髪の波、つむじに光の輪やわらかい。

―髪さわりたくなるな、って俺ほんと…どうしよ、

君の髪ふれたい、今。

こんなこと想ったことなかった、けれど今それだけ廻る。
だから不安になる、今夜ここで、君の家で、君との夜どうなるのだろう?

※校正中
secret talk76 安穏act.13← →secret talk78
にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村
blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弥生山野、片栗の春

2018-04-02 23:59:05 | 写真:花木点景
紅紫あわく舞う、二輪ゆれる春。


繁忙四月、眠いです、笑
撮影地:片栗カタクリ@山梨県2018.3

いろいろのつぶやき18ブログトーナメント
にほんブログ村 写真ブログ 山・森林写真へにほんブログ村 blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ 
著作権法より無断利用転載ほか禁じます

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする