三輪さち子、編集委員・北野隆一2021年4月29日 19時12分
外国人の収容や送還のルールを見直す出入国管理法改正案の審議で、3月に収容中のスリランカ女性(当時33)が死亡した事案が焦点になっている。法務省出入国在留管理庁(入管庁)が経緯を調査した中間報告に、「仮放免」の必要性を指摘した医師の診断内容が記載されていなかった。野党は、入管庁が「隠蔽(いんぺい)」した可能性があるとみて真相解明を求めている。
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名古屋出入国在留管理局で収容中に亡くなったスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん=遺族提供
「改正法案も、入管庁に多大な裁量を持たせることになる。入管庁に信頼が置けるかが非常に大事だ」
28日の衆院法務委員会。立憲民主党の寺田学氏は、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題の真相解明は入管法審議の前提だと訴えた。
問題は名古屋入管局で起きた。昨年8月に収容されたウィシュマさんは今年1月以降、嘔吐(おうと)や体のしびれが続き、トイレにも職員の介助が必要な状態になり、3月6日に死亡した。
入管庁は法案審議が始まる直前の4月9日に中間報告を出したが、亡くなる2日前に診断した精神科の医師が「仮放免してあげれば良くなることが期待できる」と指摘した事実が盛り込まれていなかった。共産党の藤野保史氏は「仮放免にかかわる話が抜かれている。隠蔽ではないか」と批判する。
入管庁は23日の衆院法務委で、「名誉とプライバシーの関係から記載しなかった」と説明したが、調査を指示した上川陽子法相は「今のような理由で控えるのは少し不十分な状況だ」と非を認めた。
野党側は早期に最終報告を提出するよう求めたが、上川氏は「できるだけ早く」と語るにとどめた。
真相解明はウィシュマさんの遺族も求めている。27日にオンラインで立憲の会合に参加した遺族は「(死亡の経緯が記された)文書には分刻みで容体の変化が記録されている。監視カメラで本人の様子を撮った映像があると思う。ぜひ見せてほしい」と訴えた。
名古屋入管で死亡したスリランカ人女性の母親や妹らが、日本の国会議員や弁護士らの質問に答えた=2021年4月27日午後6時50分、Zoom画面から
これを受け、野党側は28日の審議で、遺族と議員に映像を開示するよう求めたが、上川氏は「保安上の観点から公開は適切ではない」と受け入れなかった。
審議中の入管法改正案では、難民認定申請中は送還しないとする現行法を改め、同じ理由の申請は事実上2回までとするなど入管庁の権限を強化する内容が含まれている。
野党側は今回の事案で入管庁への不信感を強めており、改正案の審議よりも真相究明を優先させるよう求めている。これに対し、与党は連休明けの5月7日にも採決したい意向で、野党側は強く抗議している。(三輪さち子、編集委員・北野隆一)