「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・12・05

2013-12-05 08:30:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

「アメリカの社会科の教科書には、広島長崎の原爆は早く戦争を終らせるために投下した。朝鮮戦争は共産主義国がしかけた、と書いてあるという。同じことをソ連の教科書には、原爆はアメリカがソ連を威嚇するために落した、朝鮮戦争はむろん韓国がしかけた、韓国はアメリカの傀儡(かいらい)だと書いてあるという。
 八年前北朝鮮は三十八度線の地下を南へ向けて三・五キロも掘って、いつでも攻めこめるようにした。韓国はくやしがって世界に訴えたが、北は南が自分でトンネルを掘って北が掘ったと言いふらしていると逆襲した。もし南北朝鮮がこれを教科書に書くとすれば、それぞれサギをカラスと書くだろう。
 以上世界ひろしといえども、自国を悪く書く教科書はない。それが健康というもので、故に健康というものはイヤなものである。それなのにひとりわが国の教科書だけは、日清日露の戦役まで侵略戦争だと書いて良心的だと思い思わせている。
                         [Ⅱ『互いに鷺を鴉という』昭57・3・25]」

(山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集-」新潮社刊 所収)

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