今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。再録。
「日本はアメリカと戦って敗けて占領されながらアメリカ人を憎まない。怨まない。マッカーサー元帥が解任され日本を去るときなど『マッカーサー元帥萬歳』をとなえんばかりだった。ソ連の参戦とそのあとの強制連行と苛酷な労働によって何万という人が殺されたことを言う人は少い。したがって怨む人もまた少い。
蒋介石は怨みに報いるに徳をもってするといって日本人全員を早速送りかえした。賠償を求めないと声明を発した。それを恩義に感じている人は希である。
このぶんでは原爆許すまじも口さきだけで、本気で憎んでいる人はないのではないか。日本人は恩怨(おんえん)共に忘れる。千年前の怨みを忘れないのはよいことではないが、すぐ忘れるのもまたよくないのではないか。そして忘れる国民は忘れない国民に犇(ひし)とかこまれているのである。
[Ⅳ『恩怨ともに忘れる』昭61・5・29]」
(山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集-」新潮社刊 所収)
「日本はアメリカと戦って敗けて占領されながらアメリカ人を憎まない。怨まない。マッカーサー元帥が解任され日本を去るときなど『マッカーサー元帥萬歳』をとなえんばかりだった。ソ連の参戦とそのあとの強制連行と苛酷な労働によって何万という人が殺されたことを言う人は少い。したがって怨む人もまた少い。
蒋介石は怨みに報いるに徳をもってするといって日本人全員を早速送りかえした。賠償を求めないと声明を発した。それを恩義に感じている人は希である。
このぶんでは原爆許すまじも口さきだけで、本気で憎んでいる人はないのではないか。日本人は恩怨(おんえん)共に忘れる。千年前の怨みを忘れないのはよいことではないが、すぐ忘れるのもまたよくないのではないか。そして忘れる国民は忘れない国民に犇(ひし)とかこまれているのである。
[Ⅳ『恩怨ともに忘れる』昭61・5・29]」
(山本夏彦著「ひとことで言う-山本夏彦箴言集-」新潮社刊 所収)