「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・12・13

2013-12-13 08:05:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続き。

「私は小学四年生のとき『人の一生』と題する綴方を書いた。人の一生はこんなものだ、生きるに値いしないという気持が自然に出ている(中公文庫『恋に似たもの』所収)。思えば私の一生はこれに尽きている、外道(げどう)だといわれるゆえんもここにあると思うので再録を許してもらう。仮名遣を改めただけで原文のままである。
   人の一生   四年 山本夏彦
  おいおい泣いているうちに三つの坂を越す。生意気なことを言っているうちに少年時代はすぎてしまう。その頃になってあわてだすのが人間の常である。あわててはたらいている者を笑う者も、自分たちがした事はとうに忘れている。かれこれしているうちに二十台はすぎてしまう。少し金でも出来るとしゃれてみたくなる。その間をノラクラ遊んでくらす者もある。そんな事をしているうちに子供が出来る。子供が出来ると、少しは真面目にはたらくようになる。こうして三十を過ぎ四十五十も過ぎてしまう。又、その子供が同じことをする。こうして人の一生は終ってしまうのである。

 私は二十二のとき自活するつもりで家を出た。案内広告で二流の出版社に応募すると必ず採用された。戦争で若者が払底しだしたのである。私は転々として編集と営業のたいがいを覚えた。昭和十五年、統制で続々廃業させられているさなかに、これから出版を始めようとする奇特な素人に拾われ、私は高給で雇われた。それから空襲で焼けるまでの三年半、私は嬉々として働いた。紙の実績は印刷屋にもあるから当然配給がある。ポスターや社史の注文はない。紙持ちでやってくれといえば喜んでやってくれる。こんなこと『抵抗』でも何でもない。』相手は分らずやの軍人である。みんな面白ずくでした。」

(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)



こんな小学四年生、いやですねえ。
コメント
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