「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

第五列 2013・12・21

2013-12-21 15:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

「中国はもと礼譲の国だったが、このごろ失礼の国になった。ラジオでときどき北京放送を聞くが、中国がわが国を口ぎたなく罵(ののし)らない日はない。
 佐藤のやから、佐藤のやからとアナウンサーが連呼するから、佐藤のやつらの誤りかと怪しんだら、そのうち長官中曽根と言ったので、ははあと合点した。
 中曽根長官といえば尋常で、侮辱したことにならないから、長官中曽根と呼んだのだろう。順序を転倒させると、語気荒く、憎々しくなる。ほかに、米日反動派はぐるになって悪事を働き、日本人民を苦しめている云々と、まずこんなことを言いつづけている。
 天皇ヒロヒトの手は、日本人民の血にまみれていると、これはラジオでなく新聞に小さく出ているのを読んだ。新華社電は日本の軍国主義を非難して、ついでに天皇の手を血だらけにした。
 ずい分失礼なことを言うラジオであり、国である。かりにも一国の象徴や宰相を、公然と凌辱することかくの如き国を、いまだかつて私は知らない。もしわが国が軍国主義なら、直ちに干戈(かんか)に訴えただろう。毛沢東のやから、周恩来の一味に一矢(いつし)むくいたことだろう。
 中国がわが国の軍国主義を非難しだしたのは、古いことではない。半年ぐらい前からのことで、はじめはあっけにとられ、だれも相手にしなかった。
 ところがその軍国主義はあっというまにわが国にあることになった。今ではあることを疑うものの方が稀になった。
 中国があると言いだすと、待ちかまえていて、あると呼応する者が国会にいる。新聞社にいる。そんなら中国より早く言いだせばいいのに、その才がない。追従を事とする者で、いわゆる第五列である。
                                       (『小説新潮』昭和46年11月号)」

(山本夏彦著「とかくこの世はダメとムダ」講談社刊 所収)



 「第五列」と言っても現在の多くの人は何のことか分らない。スーパー大辞林には、「〔スペイン内乱中、四個部隊を率いてマドリードに進攻するフランコに呼応した共和政府内のグループを、フランコ側が第五列と称したことに始まる〕内部にあって、外部の敵勢力に呼応して、その方針のもとに活動しているグループ。」とある。
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