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哺乳類進化研究アップデート No.18ーシュプリンガー・ネイチャー社の推す2021年進化生物学論文

2022-03-06 10:57:26 | 哺乳類進化研究アップデート

ネイチャーとその姉妹紙の他、多くの学術雑誌を出版しているシュプリンガー・ネイチャー社が、2021年の研究ハイライトとして各分野9報ずつ論文をリストアップしました。その中から、進化生物学分野で推されている論文9報を紹介します。今回は哺乳類に限定しないで、進化生物学全体で今注目されている研究は何かを見ていきたいと思います。9報について、タイトル、雑誌名、私のかんたんな説明を書いてみました。

 

①「SARS-CoV-2変異体、スパイク変異および免疫回避」Nature Reviews Microbiology

新型コロナウイルスの表面のスパイクタンパク質の遺伝子がワクチンとして利用されていますが、ここの部分が変異=進化を続けています。ワクチンをどう設計するかにも影響することであり、これまでの研究結果がまとめられてます。

②「進化の歴史が人間の健康と病気に及ぼす影響」Nature Reviews Genetics

人間の病気のリスクに与える遺伝的変異は、人間やずっと先祖の進化に起源があります。そうした研究分野は進化医学といわれますが、進化医学の知見を整理して、医療への応用可能性を探っています。

③「フクロオオカミと小型捕食性イヌ科動物の機能的生態学的収束性」BMC Ecology and Evolution

有袋類のフクロオオカミは絶滅したため、その生態はわかっていません。一方で、別系統の有胎盤類で形態的に似ているオオカミや犬とは、収斂進化したと考えられてきました。これらの動物たちの頭蓋骨形状を比較することで捕食していた獲物の大きさを予測しました。その結果フクロオオカミは、オオカミや犬より、自分の半分以下の獲物を捕食する中型のイヌ科動物(ジャッカル、キツネなど)と生態が似ているという予測が得られ、より詳細な比較が重要だということが示唆されました。

④「性的対立は、免疫における性的二形性のミクロ進化とマクロ進化を促進します」BMC Biology

免疫の機能は「オスとメスで違いがある」=「性的二形性がある」と言われています。ここでは、昆虫の免疫物質であり、メスのほうが活性の高いフェノールオキシダーゼ活性が検討されました。この昆虫は、自然環境下では一夫多妻制を示しますが、強制的に一夫一妻制にすると、メスのフェノールオキシダーゼ活性が低下することが示されました。このことは、交配による感染リスクに対して免疫が調整されていることを示しているらしいです。

⑤「進化と生態学のモデルシステムとしてのコクヌストモドキ」Heredity

甲虫のコクヌストモドキは、1世紀以上にわたって有用な実験モデルとして使用されてきました。ここでは、この昆虫を用いて行われてきた生態学や進化学の研究をレビューし、遺伝子操作の面での利便性も述べられています。

⑥「発情行動への関与の程度を伝える性的信号であるオスのアカシカの暗い腹側のパッチ」BMC Zoology

発情の季節に、オスのアカシカでは腹側に暗いパッチが現れます。このパッチの発現と発情行動の関係を観察したところ、大きなパッチを発現しているオスでは、より高い頻度の発情行動(主に轟音とフレーメン)、メスとのより多くの相互作用を示し、より大きなハーレムサイズを達成したことがわかりました。このことから、パッチの発現は、交配に向けたオスの意欲の指標になると考えられました。

⑦「系統発生的に定義されたクレード名を使用した化石および生きているカメの命名法」Swiss Journal of Palaeontology

これまで研究者によって、カメのクレード(分岐群)に基づく系統発生的な命名がされてきました。しかし、これは新しく制定されたクレード命名法であるPhyloCodeに基づいていなかったため、今回、新たな命名法に従ってカメのクレードや種名が変換されたということです。

⑧「恐竜から鳥への大進化、運動装置、そして飛行の起源」Journal of Iberian Geology

鳥は恐竜からの大進化で出現したことは化石の研究で明確になっていますが、その過程はまだ不明点もあります。鳥になる手前の恐竜であるマニラプトル類の化石の研究により、すでに空中移動が発達していたことが示されました。マニラプトル類が飛ぶための運動装置である前肢を発達させた過程が検討されています。

⑨「化石および生きている海洋爬虫類における移動装置と近軸水泳:偽竜目、首長竜目、およびウミガメ目との比較」PalZ

爬虫類のうち、化石で残る偽竜目、首長竜目、そして現生のウミガメ目は海に生息し、水生近軸運動という移動法を進化させました。これら3グループについて、移動スタイルー漕ぎ、漕ぎ飛行、水中飛行ーが比較されました。

 

以上、基礎的な分類法や行動生態学から医療に関わることまで多様な分野の研究が含まれていました。これらの研究で対象となった生物を分類すると、ウイルス1報、昆虫2報、爬虫類3報、哺乳類3報となっています。植物はありませんでした。哺乳類を対象とした面白そうな論文については、今後ピックアップして紹介してみたいと思います。