「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」
スティーヴン・ジェイ・スナイダーが総編集にあたった「死ぬまでに観たい映画1001本」は,まだ観ていない,知らなかった映画のチェックにとても重宝している。私が持っている2004年版で気になっていた,エリア・カザンの妻(当時)が監督したという「WANDA」がとうとう日本公開されることになった今年,スナイダーの慧眼に匹敵する批評眼の持ち主マーク・カズンズ . . . 本文を読む
「ノルウェー人の女性」と言われて真っ先に思い出すのは,国連でSDGsの基礎となる報告書をまとめ,WHO事務局長も歴任したブルントラント首相。皆が皆,彼女のような傑出した人物であるとは限らないまでも,ヨアキム・トリアーの新作「わたしは最悪。」の主人公ユリアのように,自分の感情や思考の指し示すところへ自由に羽ばたいていく,というイメージは根強くある。何せ,元々は囚人に対する刑罰から始まったという説もあ . . . 本文を読む
リンダ・ロンシュタット。1970年代に青春を送った世代には、忘れることのできない名前だが、先日,マスコミに勤める20代の方に尋ねたところ「名前も曲も、一度も聞いたことがない」という返事が返ってきた。今ならさしずめ「テイラー・スイフト」的な存在と言っても過言ではないと思うのだが,無理もないだろう。本作を観て初めて知ったが、リンダはまさに人気がピークだった時に「大きすぎるギターの音が鳴り響く巨大なスタ . . . 本文を読む
フライヤーには「事件から60年が経つ現在も,香港やミャンマー,ウイグル地区など民衆弾圧事件は絶えない。この不穏な世界情勢と地続きにあり,決して遠い過去の話と言えない重いメッセージをはらんだ本作。ソ連解体から30年,まさに「今」観るべき作品が誕生した」とある。制作年が2020年である本作の日本での公開は,ロシアによるウクライナ侵攻後の4月(札幌は5月)。公開に向けた宣材の準備段階では,まさかロシアが . . . 本文を読む
どう見ても一般受けするとは思えなかった怪獣映画によって,思いがけず世界中から喝采を受けることとなったメキシコの俊英ギジェルモ・デル=トロの新作。今回彼の元に集まった超豪華な俳優陣をサッカーチームに喩えると,ワントップがブラッドリー・クーパーで,ボランチはケイト・ブランシェット。シャドウ・ストライカーにルーニー・マーラを配して,CBはウィレム・デフォーにリチャード・ジェンキンス。更に両サイドバックは . . . 本文を読む
前作「ホーリー・モータース」の中盤で,物語を加速させたマーチングのシークエンスに手応えを感じたからなのかどうかは分からないが,レオス・カラックス10年振りの新作はなんとミュージカルだった。しかもまるでオペラのようなフレームを持ったファンタジーの中核を担ったのは,50年のキャリアを誇る兄弟グループのスパークス。彼らの音楽を聴く度に,残念ながら分裂してしまったKIRINJIが,もしも仲良くデュオを続け . . . 本文を読む
バスに乗って故郷を去って行く息子一家に向けて,ジュディ・デンチ扮するお祖母ちゃんが決然と言い放つ台詞「Go!」が,この愛らしいモノクロームの作品が内包する魅力のすべてを物語っている。
生まれ育った街。全宇宙と等価の存在である故郷。その街,北アイルランドのベルファストへの愛を素直に口にし,引っ越しを拒否する少年に対して,生きていく覚悟を伝える祖母の厳しくも愛に満ちた言葉を,静止したアップのショットで . . . 本文を読む
「ノッティングヒルの恋人」「チェンジング・レーン」「ウィークエンドはパリで」。昨年9月になくなったロジャー・ミッシェルのフィルモグラフィーを眺めてみると,物語の傾向は様々なれど,どれもハリウッド作品とはひと味違う,「ちょっと毛羽立ってるけどウェルメイド」な手触りが共通しているように思う。1960年代にそんなことが起きたとは信じられない犯罪を扱った「ゴヤの名画と優しい泥棒」もまた,そんな彼の資質が効 . . . 本文を読む
若年性認知症を患った弟を介護した自らの体験から脚本を書いたサリー・ポッターの「選ばなかったみち」は,まだ「老境に入った」とは言えない作家が患う病と,それに翻弄される娘の姿を描いた小品だ。「ノーカントリー」で不条理を絵に描いたような殺し屋を快演する一方で,「愛すべき夫婦の秘密」では,妻=ルシール・ポールのことを愛しながらも女にだらしない情熱的な夫を演じ,妻役のニコール・キッドマンのゴールデングローブ . . . 本文を読む
スティーヴン・スピルバーグ作品の音楽と言えばジョン・ウィリアムズ。今も世界中で恐怖を煽る場面のBGMに使われている「ジョーズ」のアタック場面に流れる旋律に始まって,「未知との遭遇」でETとの交流に使われた5つの音符によるメロディ,「インディ・ジョーンズ」シリーズの勇壮なテーマ曲に,まるでブラキオサウルスの姿をそのまま音にしたような「ジュラシック・パーク」のメイン・テーマ。彼が創り出した燦めく作品群 . . . 本文を読む