子供はかまってくれない

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映画「リミットレス」:ロバート・デ・ニーロはもう主役を張れないのだろうか?

2011年10月15日 22時21分59秒 | 映画(新作レヴュー)
平凡だったり精神遅滞だったりする男(女)が,薬物や外科治療もしくは新たな病気によって飛躍的にその知力を向上させるが,治療による副作用は確実に被験者を蝕んでいく。ダニエル・キイスの名作「アルジャーノンに花束を」を嚆矢とする「アルジャーノン」ものの新作「リミットレス」は,お決まりの設定の下で粛々と物語が進んでいくが,映像面での先進的なトライと謎を封印したまま突っ走る話術の冴えが相まって,緊張感に満ちた仕上がりとなった。

スティーブン・ミルハイザーの短編小説を,後味の良い謎解きものとして昇華させた「幻影師アイゼンハイム」によって一躍名を挙げたニール・バーガーは,今作でもスピード感溢れる移動撮影によって,独特の映像空間をものにしている。実際に劇中で展開されるアクション・シーンはそう多くはないのに,見終わったときの印象がSF
テイストよりもアクションが勝っているのは,主人公を実際に走らせていることに加えて,映像(=カメラ)そのものを動かしていることが大きく影響している。

また,人間の脳が持つ能力を極限まで使用可能にするNZT48なる新薬(NMB48でもSKE48でもないし,女の子がたくさん出てくる幻想を観るわけでもない。念のため)を服用した際の映像の切り替えの鮮やかさに加えて,スーパーマンになる前にまず部屋の掃除をさせるというリアルな展開や,主人公を追跡するタフな敵役に,どこから見てもアパートの管理人にしか見えないような老人を配するなど,工夫の足りないデ・ニーロの設定を帳消しにするようなキャスティングの妙なども,充分に水準以上の出来だろう。
「ハング・オーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」を上回る切羽詰まった状況に置かれたブラッドリー・クーパーの開き直り演技,そして母国の先輩であるニコール・キッドマンを彷彿とさせるアビー・コーニッシュの気品も,共に二重丸。

だが主人公が追い込まれていく状況が明白になる中盤以降,物語は前に進むための手がかりを失って停滞する。新薬の出所を巡るエピソードを挟み込み,主人公が義弟の死や元妻の忠告を解き明かしていくことによって,スリラーとしての体裁を保つのが常道と思われるところで,バーガーは主人公に自分の生き方と向き合うことを選択させてしまうのだ。
更に薬を失った主人公が逆襲に出るべきラストでは,スピルバーグの「宇宙戦争」もかくやという脱力オチ(「宇宙戦争」の方は単にオリジナルに忠実なだけだったのだが)で,観客を置いてきぼりにする。映像的チャレンジも,しっかりしたスジ(脚本)あってのものということが,観客の胸に深く刻まれるという皮肉な結果となってしまったのは残念だ。一スジ,二ヌケ(画面),三動作(演技,役者)と喝破したマキノ雅弘(牧野省三説もあり),偉大なり。
★★★
(★★★★★が最高)


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