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Randy Newman「Harps And Angels」:今の米国が必要としている楽しくも苦い薬

2008年10月06日 23時43分19秒 | 音楽(新作レヴュー)
ブライアン・ウィルソンの新しいアルバムが素晴らしい。古い流行歌をモチーフにして,そこから湧き出たインスピレーションを紡いだ物語は,傑作「スマイル」とはまた違った豊穣さを湛えて,聴く度に違った表情で魅了する。メロディとコーラスワークの美しさもさることながら,音楽を創り出す歓びが漲っている声の力は,正に奇跡と呼んでも良いくらいだ。
なので,もう少しそのアルバム「That Lucky Old Sun」について想いを巡らせようかとも思ったのだが,これに関する賞賛の声は放っておいてもこれから至る所に噴出してくると思うので,ここでは同じくらい感動的だが,日本においては殆どの媒体から無視されるであろう,ランディ・ニューマンの新譜の方を紹介することにする。

オリジナル・アルバムとしては13枚目,純粋に新しい曲で構成されたアルバムということで見れば1999年の「Bad Love」以来9年振りとなる「Harps and Angels」には,ピアノから捻り出された軽やかで奥行きのあるメロディと,いつも通りの諧謔と風刺に満ちた歌が10曲,ジャケットに映っているバイクのように肩を寄せ合って並んでいる。

ため息まじりに死の淵からの生還を祝う冒頭から,深い孤独からの救済が静かに歌われる最後の曲まで,味わい深い旋律がずらりと並ぶが,どの曲もアレンジはシンプルで力強い。基本的なフォーマットは,いつに変わらずピアノの弾き語り。そこにラグタイムやフォークソング,カントリー,そしてミュージカル歌曲の風味を,良い塩梅に振りかけて,ランディ・ニューマンにしか作れない絶妙な味わいを更に際立たせているのは職人プロデューサー,ミッチェル・フルームの功績だ。

キャロル・リードの「第三の男」におけるハリー・ライムの台詞よろしく,ベルギーのレオポルド王を引き合いに出しながら,現在の米国を痛烈に批判する「A Few Words In Defense Of Our Counrty」の重層的な面白さや,拝金社会の批判者として唐突にジャクソン・ブラウンを持ち出す「A Piece Of The Pie」における表現者としてのフットワークには,伝統音楽の担い手としての責任感と共に,常に社会にコミットしていこうとする,真っ直ぐに伸びた背筋が現れている。
「了見の狭い人」を揶揄するために「身長の低い人」を象徴的に取り上げた「ショート・ピープル」が全米で放送禁止になった頃には,大スクリーンのドルビー音響で,ランディ・ニューマンが作った音楽(「トイ・ストーリー」や「カーズ」等々)が聴ける時代が来るとは夢にも思わなかったが,やはり私が待っていたのはこういうアルバムだったのだ。

かつてクリント・イーストウッドは「米国で生まれた真にオリジナルなものは,西部劇とジャズだけだ」と語ったと言うが,今の米国が真に必要としているのは,正にこのアルバムだと私は思う。ヒットは望めないかもしれないだろうが,埋もれさせてはいけない。

★★★★★


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1 コメント

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はじめまして (col)
2009-07-18 21:13:18
このアルバム、ではなくても、アメリカで、もっとランディ・ニューマンが聴かれるようになればいいですね

またお邪魔します
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