夏シーズンは正直「何だかなぁ」という感じのまま,盛り上がりを見せることなく終わってしまった。
「ゴンゾウ」と「四つの嘘」を並べたテレビ朝日勢が多少頑張りを見せた他は,出足良くスタートを切った番組でも,結果的には暑さに負けて勢いを失ってしまったような印象が強い。
「モンスター・ペアレント」は,米倉涼子が日本のTVドラマ界では珍しく,熱くならない弁護士役を途中までは楽しそうに演じていたのだが,お決まりの「熱血職業倫理感」が首をもたげた段階で,ドラマの求心力は失われてしまった。草刈正雄の台詞棒読みの可笑しさだけで45分持たせるというのは,やはり無理だった。
「太陽と海の教室」も,主演陣の一人の死という禁じ手に走ったにも拘わらず,その前後の描写にリアリティを欠き,集団劇としてのダイナミズムは訪れないまま最終回を迎えてしまった。
しかしそれ以前に,リアリティを追求する学園ドラマにおいて,生徒が抱える問題に対する答を教師が既に持っており,それを高みから一方的に与えるという構図が通用しないことは最早明白であり,「わたしたちの教科書」においてそんな構図を塗り替えてみせた坂元裕二が,ここにおいて明らかな退歩を見せたことは失望を通り越して,驚きですらあった。
そんなドラマ総夏バテ状態からの回復を祈りつつ,秋シーズンの先陣を切って始まったフジの「風のガーデン」を観た。
放送開始前から,倉本聰最後のTVドラマだという噂が飛び交い,嫌が応にも世間の関心が高まっていたように感じていたが,放送開始直前になって飛び込んできた,緒形拳逝去の報には正直びっくりした。
制作発表の記者会見で見せた老いに当惑していたのだが,まさかそれが病気のせいだったとは思いもよらなかった。主役の中井貴一の父親役で出演しているのだが,撮影中の苦しみを想像しながら観た第1回のプロローグ(呆けが始まっている大滝秀治との絡み)には,実に感慨深いものがあった。当然役者としては,そんな本編以外の部分から想起される思いを排除して,純粋に演技を味わって欲しいという気持ちが強かったとは思うが,孫との会話シーンにおける言葉と表情が持つ浸透力は,掛け値なしに本物の役者だけが持ち得るものだった。
倉本聰と緒形拳という映像表現界の重鎮二人が,文字通り精魂を込めたドラマの方は,期待通り快調な滑り出しを見せている。
富良野で在宅医療に取り組む緒形拳のシークエンスで幕を開け,続けて,優秀だが女好きがたたって,今は東京で孤独な生活を送っている麻酔医(中井貴一)のキャラクターを,短いシークエンスをたたみ掛けるようにつないで表現した冒頭部には,この作品によってドラマのスタンダードを一段上げてやる,というくらいの制作陣の意気込みが感じられた。どうしても山田太一とのコンビを連想してしまう中井貴一だが,困難な課題を前にしてこそ輝くタイプが,新しい代表作を作り上げる可能性は充分にありそうだ。
奥田瑛二や黒木メイサといった,倉本ドラマの前作「拝啓,父上様」からの連続登板組も含めて,新しい倉本組の息吹が中身と数字に結びついて,「脚本 倉本聰」というクレジットがこれで最後にならないよう,その行方をしっかりと見つめていきたい。
「ゴンゾウ」と「四つの嘘」を並べたテレビ朝日勢が多少頑張りを見せた他は,出足良くスタートを切った番組でも,結果的には暑さに負けて勢いを失ってしまったような印象が強い。
「モンスター・ペアレント」は,米倉涼子が日本のTVドラマ界では珍しく,熱くならない弁護士役を途中までは楽しそうに演じていたのだが,お決まりの「熱血職業倫理感」が首をもたげた段階で,ドラマの求心力は失われてしまった。草刈正雄の台詞棒読みの可笑しさだけで45分持たせるというのは,やはり無理だった。
「太陽と海の教室」も,主演陣の一人の死という禁じ手に走ったにも拘わらず,その前後の描写にリアリティを欠き,集団劇としてのダイナミズムは訪れないまま最終回を迎えてしまった。
しかしそれ以前に,リアリティを追求する学園ドラマにおいて,生徒が抱える問題に対する答を教師が既に持っており,それを高みから一方的に与えるという構図が通用しないことは最早明白であり,「わたしたちの教科書」においてそんな構図を塗り替えてみせた坂元裕二が,ここにおいて明らかな退歩を見せたことは失望を通り越して,驚きですらあった。
そんなドラマ総夏バテ状態からの回復を祈りつつ,秋シーズンの先陣を切って始まったフジの「風のガーデン」を観た。
放送開始前から,倉本聰最後のTVドラマだという噂が飛び交い,嫌が応にも世間の関心が高まっていたように感じていたが,放送開始直前になって飛び込んできた,緒形拳逝去の報には正直びっくりした。
制作発表の記者会見で見せた老いに当惑していたのだが,まさかそれが病気のせいだったとは思いもよらなかった。主役の中井貴一の父親役で出演しているのだが,撮影中の苦しみを想像しながら観た第1回のプロローグ(呆けが始まっている大滝秀治との絡み)には,実に感慨深いものがあった。当然役者としては,そんな本編以外の部分から想起される思いを排除して,純粋に演技を味わって欲しいという気持ちが強かったとは思うが,孫との会話シーンにおける言葉と表情が持つ浸透力は,掛け値なしに本物の役者だけが持ち得るものだった。
倉本聰と緒形拳という映像表現界の重鎮二人が,文字通り精魂を込めたドラマの方は,期待通り快調な滑り出しを見せている。
富良野で在宅医療に取り組む緒形拳のシークエンスで幕を開け,続けて,優秀だが女好きがたたって,今は東京で孤独な生活を送っている麻酔医(中井貴一)のキャラクターを,短いシークエンスをたたみ掛けるようにつないで表現した冒頭部には,この作品によってドラマのスタンダードを一段上げてやる,というくらいの制作陣の意気込みが感じられた。どうしても山田太一とのコンビを連想してしまう中井貴一だが,困難な課題を前にしてこそ輝くタイプが,新しい代表作を作り上げる可能性は充分にありそうだ。
奥田瑛二や黒木メイサといった,倉本ドラマの前作「拝啓,父上様」からの連続登板組も含めて,新しい倉本組の息吹が中身と数字に結びついて,「脚本 倉本聰」というクレジットがこれで最後にならないよう,その行方をしっかりと見つめていきたい。