子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「2022年の10本」:日本の特異な興行事情の狭間に立ち尽くす

2023年01月02日 11時08分41秒 | 映画(新作レヴュー)
今更ながらアニメーション作品が席巻する日本の興行事情を実感することとなった1年だった。全てのスクリーンに対するアニメ作品の占拠率がどのくらいなのかは分からないが,シネコンのロビーを埋め尽くす若い観客が,目当てのアニメ作品(プラス「トップガン マーヴェリック」も)の開場を告げるアナウンスと共に一斉に入り口へと移動していく光景は,社会がCOVID-19禍から脱出しつつあることを象徴するひとつと言えるものだった。
その一方で「大スクリーンならでは」の迫力を謳った大作の「ブラックパンサー ワカンダ・フォーエヴァー」や「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」等が興行的に軒並み期待外れに終わったことや,小規模プロダクション制作の佳品(A-24作品を除く)がこれもまた揃って短期興行に終始したことは,映画興行の将来に暗い影を投げかけた。ネットフリックスの加盟者数の低迷に象徴される配信事業の頭打ち状況と併せて考えると,業界への資本投下がこの先ますます先細りになっていくことが懸念されるが,それに抗して作品規模は小さいけれども志は高い作品の存在を少数ながらも確認できたことには,昨年閉館した岩波ホールの総支配人故高野悦子氏も泉下で拍手を送っているはず。そんな作品リストは以下の通り。
(順位は鑑賞順)
1 パーフェクト・ケア:J・ブレイクソン
2 メモリア:アピチャッポン・ウィーラセタクン
3 チタン:ジュリア・デクルノー
4 リコリス・ピザ:ポール・トーマス=アンダーソン
5 WANDA:バーバラ・ローデン
6 NOPE:ジョーダン・ピール
7 LAMB/ラム:ヴァルディミール・ヨハンソン
8 秘密の森の,その向こう:セリーヌ・シアマ
9 ザリガニの鳴くところ:オリヴィア・ニューマン
10 あのこと:オードレイ・ディヴァン

1はロザムンド・パイクの久しぶりの暴れっぷりにあっぱれ。
2のアピチャッポン作品は,札幌市の西2丁目地下通路の壁面に毎日投影されている彼の作品の静謐さとの合わせ技。
3は「合金人間」の誕生よりも,途中で主人公がヒロインからその父親に入れ替わってしまう転調が新鮮だった。
チョイ役で出てくる大物の転がし方も含めてとにかく楽しかった4。
こんな作品がまだどこかに眠っていると考えるだけで,世界の広さや評価と興行の関係性を考えさせられた5。
「アキラ」や「2001年宇宙の旅」等々,過去の偉業へのリスペクトをこんな形で出してきたジョーダン・ピールの懐の深さを感じさせた6。
7のラスト,アイスランドを越えて,北欧の神秘性を昇華させた力業に拍手。
8は評判高かった「燃ゆる女の肖像」の良さに気づけなかった私にとって,セリーヌ・シアマの才能にノックアウトされた最初の作品。
オーソドックスな作りで突出したところはなかったにも拘わらず,鑑賞後の余韻がいつまでも続いた9。
4DX作品でもないのに,精神と身体の神経にダイレクトに訴えかけてきた10が2022年のNO.1作品。

その他ではデヴィッド・ロウリー版の「ジェイコブズ・ラダー」だった「グリーン・ナイト」,「ウェンズデー」のジェナ・オルテガとダンス合戦をやらせたくなった「RRR」,娯楽映画の神髄を臆面もない形で表してみせた「トップガン マーヴェリック」,70年代の米音楽に接した人なら涙なくしては観られない「リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・ヴォイス」,おばあちゃんがよかった「ベルファスト」,相変わらずのウェス・アンダーソン節「フレンチ・ディスパッチ」,マルセイユ時代の酒井宏樹が如何に地元に愛された存在だったかが分かる「スティルウォーター」などが印象に残った。
今年も兎に負けじと,跳ねた作品に出会えることを期待したい。

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