子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ラ・ラ・ランド」:史上最強のアイ・コンタクト!

2017年04月01日 18時11分40秒 | 映画(新作レヴュー)
公開からひと月が経ち,劇場の混雑度合いも落ち着いた頃かと思って出掛けたのだが,シネコンもさるもの。春休みの子供向け作品にスクリーンを明け渡す時期に来ていたこともあって,何と通常の字幕版の上映回数を土曜日にも拘わらず2回に減らしたため,私が観に行った昼の回はほぼ満席。前から6列目くらいに座席を指定されたおかげで,シネマスコープの画面に映るものを見逃すものかと精神力を両眼に集中し続けた128分の後にやってきた感動は,尋常ではないものだった。

デイミアン・チャゼル監督の長編デビュー作「セッション」は,音楽にかける情熱に溢れた若者と,芸術的なエゴ細胞だけで成り立っているようなプロ教官とのバトルを描いて評判を呼んだ一方で,ステージ上のバトルシーンに象徴されるように,所々で若さが露呈し気合が空回りしている印象もあった。しかし監督にとって「ミュージカルを撮ることが念願だった」という夢を実現した2作目は,ミュージカルの未来を開く新鮮なチャレンジと言っても良い素晴らしい作品になっていた。

今作もロバート・グラスパーに代表されるEDM風味の現代的なアレンジを施したジャズへの批判とも取れる音楽観や,「歌って踊る」という正にミュージカル仕立てのシークエンスが,まるで体力が消耗する前にジャンプを多く取り入れるフィギュアスケートのプログラムに倣ったかのように,冒頭から中盤にかけてに集中しており,作品全体の重量バランスを欠いていると言えなくもない。
しかし50年代に一世を風靡したMGMミュージカルのゴージャスなテイストを随所にちりばめながら,彩度の高い原色を巧みに配した絵作りによって語られるラブストーリーは,年代を越えて観るものの胸を焦がす要素に溢れている。ラストで主役二人が交わす視線の熱さと深さは,かつてハンス・オフトが繰り返し説いた「アイ・コンタクト」の重要性を裏付けているかのようだ。ちょっと違う?失礼しました。

このところウディ・アレンの新しいミューズと言える存在になりつつあったエマ・ストーンは,オスカーの戴冠という最大級の賞賛も肯ける,これまでで最良の演技を見せる。「ナイスガイズ!」とは打って変わって,本来の輝きを取り戻したライアン・ゴズリングとのコンビネーションには,「スクリーン」や「ロードショー」(廃刊してしまいましたが)における映画好きの女子高校生向けのネタとして,3年間くらいは語り継がれるだけのインパクトを持っている。
圧倒的な名曲がある訳でもない。ダンスもアステア=ロジャース組のような超絶技巧を見せる訳でもない。しかし総体として,何度でも観たくなるような魅力を持った作品を,20代の若者のディレクションに任せて生み出してしまう,「ラ・ラ・ランド」ハリウッドの底力に敬意を表したい。
★★★★★
(★★★★★が最高)


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