子供はかまってくれない

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映画「スペル」:サム・ライミ,地獄からの帰還

2009年11月17日 22時51分12秒 | 映画(新作レヴュー)
ここにいるのは「スパイダーマン」シリーズで,コロンビア(ソニー)に巨万の富をもたらした,大ヒットメイカーとして(或いはよそ行き)のサム・ライミではない。「キャプテン・スーパーマーケット」を含む「死霊のはらわた」シリーズの,あのお茶目でパワフルでちょっとだけ下品なサム・ライミが,満面に笑みを湛えて立っている。
時空を飛び越える古代の呪いに飛び散る粘着物質,死体の逆襲に立ち向かう主人公の勇気。活劇に求められるリズムを一直線に追求した展開に,もはや「懐かしい」という感傷すら浮かんでくるような「反CG的」特殊効果ががっちりとはまって,凄まじいエネルギーを放出している。

銀行の融資担当で支店次長の座を狙う女(アリソン・ローマン)が,住宅ローンの支払期限を伸ばして欲しいと懇願してきた老女(ローナ・レイヴァー)を撥ねつけたことから,呪いを掛けられる。3日間に亘る悪霊の攻撃を乗り越えて,彼女は呪いを解くことが出来るのか。
話を動かすきっかけとして,サブプライムローン問題を想起させるような仕立てを使ってはいるが,至ってシンプルな物語が展開される99分間の上映時間中に,無駄なショット,冗長なシークエンスは一つもない。濃密な時間は観客の頭と心に息つく暇を与えず,悲鳴と肩こりと笑いが劇場の空間を満たす。いやはや,こうなると映画鑑賞も体力勝負だ。

主人公の鼻から吹き出す鮮血が支店長を直撃する場面や,喉に入り込もうとする呪いのスカーフをすんでの所でつまみ出すショットなど,スラップスティック・コメディの伝統を踏まえた,笑いを誘う演出がずばりと決まった瞬間の爽快さは,他に類を見ない。ドロドロの吐瀉物を顔にかけられるアリソン・ローマンに,難しい顔をしながら演技を付けていたであろうサム・ライミは,20年前の学生時代に住んでいた下宿を訪ねて,当時世話になったおばさんの作るご飯を食べながら,今の学生達と談笑しているような気分だったのではないだろうか。

興行収入はおそらく「スパイダーマン」1作の1/20にも達しないだろう。だが画面に対する集中力と物語を語るために必要な「それからどうなる?」という興味を繋ぐための推進力を失いかけていたライミが,映画人としての足元を見つめるために,撮らなければならないフィルムだったという気がする。そしてありがちなことだが,(作者の)肩の力が抜けたそんな作品こそが代表作になったりする,という事例の列に,この作品も並びそうだ。胸を張って人に薦めることが出来ないのが残念ではあるけれど。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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