
本作の主演ミシェル・ウィリアムズについては,子役時代に出演した「スピーシーズ 種の起原」の記憶はまったくないため,後にパートナーとなったヒース・レジャーとの共演作「ブロークバック・マウンテン」が実質的に初めて観た彼女の出演作だったのだが,不安を宿しつつも強く生を希求するような眼差しの引力に一目で魅せられた。
ひたすら暗くて重たかった前作の「ブルー・バレンタイン」の演技によって,一枚看板としても高い評価を得たことを受けて,「秘められた恋に身を焦がすマリリン・モンロー」という大役を射止めたウィリアムズは,どう贔屓目に観ても似ているとは言えない往年のセックス・シンボルに,新たな解釈と息吹を与えて見事だ。
だがここで描かれているモンローと若い第3助監督コリン(エディ・レッドメイン)との交流は,題名に偽りありとまでは言えないかもしれないが,少なくとも身を裂かれるような激しい恋愛という種類のものとは程遠いものだ。
アメリカから「王子と踊り子」の撮影のためイギリスにやって来るなり,新婚の夫であるアーサー・ミラーがあっという間に敵前逃亡をしてしまったため,ほぼ単身で撮影所に置いてきぼりにされた形になったモンローのアウェー奮戦記とも言える本作は,俳優の側から描いた「アメリカの夜」という見方をする方が,より楽しめることは間違いない。
特に共演者であり,監督も務めたローレンス・オリヴィエの狼狽ぶりは,明らかに「アメリカの夜」におけるトリュフォーを想起させる。モンローの不安定な行動によって,どんどん悪い方向に転がっていくフィルムを,何とか自分のイメージのフィールド内に繋ぎ止めようと苦悩するケネス・ブラナーの渋面こそが,明らかに本作の駆動力になっている。
完全にそう割り切って物語を捉えるならば,原作を離れてジュリア・オーモンド演じるオリヴィエの妻(ヴィヴィアン・リー)やジュディ・デンチ,そしてドミニク・クーパー演じるモンローのマネージャーらの比重をもっと膨らませた方が,よりヴィヴィッドな撮影顛末記になったかもしれないという恨みは残る。
不幸にして日本では,モンローに同行して演技上のアドヴァイスを与える女性,スタニスラフスキー・メソッドの継承者であるリー・ストラスバーグの妻ポーラ(ゾー・ワナメイカー)に,某コメディエンヌの占い師洗脳騒動を重ねてしまった観客が多いかもしれない。芸能界は,繊細な美女が生きにくい世界なのだろうと想像しつつ,小さな役ながら澄んだ眼差しで爽やかな風を送っているエマ・ワトソンの将来に幸あれ,と祈る。
★★★
(★★★★★が最高)
ひたすら暗くて重たかった前作の「ブルー・バレンタイン」の演技によって,一枚看板としても高い評価を得たことを受けて,「秘められた恋に身を焦がすマリリン・モンロー」という大役を射止めたウィリアムズは,どう贔屓目に観ても似ているとは言えない往年のセックス・シンボルに,新たな解釈と息吹を与えて見事だ。
だがここで描かれているモンローと若い第3助監督コリン(エディ・レッドメイン)との交流は,題名に偽りありとまでは言えないかもしれないが,少なくとも身を裂かれるような激しい恋愛という種類のものとは程遠いものだ。
アメリカから「王子と踊り子」の撮影のためイギリスにやって来るなり,新婚の夫であるアーサー・ミラーがあっという間に敵前逃亡をしてしまったため,ほぼ単身で撮影所に置いてきぼりにされた形になったモンローのアウェー奮戦記とも言える本作は,俳優の側から描いた「アメリカの夜」という見方をする方が,より楽しめることは間違いない。
特に共演者であり,監督も務めたローレンス・オリヴィエの狼狽ぶりは,明らかに「アメリカの夜」におけるトリュフォーを想起させる。モンローの不安定な行動によって,どんどん悪い方向に転がっていくフィルムを,何とか自分のイメージのフィールド内に繋ぎ止めようと苦悩するケネス・ブラナーの渋面こそが,明らかに本作の駆動力になっている。
完全にそう割り切って物語を捉えるならば,原作を離れてジュリア・オーモンド演じるオリヴィエの妻(ヴィヴィアン・リー)やジュディ・デンチ,そしてドミニク・クーパー演じるモンローのマネージャーらの比重をもっと膨らませた方が,よりヴィヴィッドな撮影顛末記になったかもしれないという恨みは残る。
不幸にして日本では,モンローに同行して演技上のアドヴァイスを与える女性,スタニスラフスキー・メソッドの継承者であるリー・ストラスバーグの妻ポーラ(ゾー・ワナメイカー)に,某コメディエンヌの占い師洗脳騒動を重ねてしまった観客が多いかもしれない。芸能界は,繊細な美女が生きにくい世界なのだろうと想像しつつ,小さな役ながら澄んだ眼差しで爽やかな風を送っているエマ・ワトソンの将来に幸あれ,と祈る。
★★★
(★★★★★が最高)