
大人には、胸の中にしまってある数えきれないほどの思い出があるだろう。
そして、たわいもないことほど忘れられない思い出になっているものだ。
小さい頃には、ホームグラウンドになっていた公園があるだろう。そこでの遊びに欠かせないものは、ブランコ、滑り台、ジャングルジム、シーソー、土管トンネル、砂場である。
それ以外の楽しみが一つある。自転車でやってくる紙芝居のおじさんである。紙芝居も楽しいのだが、それとともに売られている水あめや、ソースせんべい、メンコ型抜きも楽しみであった。
ソースせんべいについては、ソース味だけではなくアンズジャムの味も忘れられない。丸いせんべいをアンズじゃむで貼り付け、半分に割ったせんべいを耳のように貼り付けたうさぎの頭の形をしたせんべいなどが思い出される。 なんてことない思い出なのだが、忘れることはない。
あの鮮やかすぎるほどのアンズじゃむでベロを真っ赤にしながら食べたソースせんべいの味はおいしかった。しかし、それを二度と味わうことはできなかったのである。
先日ある店でソースせんべいを買って家で食したのだが、あの懐かしい味はしなかった。 あの時代の、そう一心に遊ぶことができる子供時代にしかない味覚なのかもしれない。だからこそ、いつまでも朽ちない思い出なのだろう。