初秋の風が吹き、夜の7時過ぎになると、家並みに沿ってぼんぼりの淡い灯りの中、
胡弓と三味線の物悲しく哀愁帯びた音色が聴こえて来た。
涼しげな少し華やいだ浴衣の女人の30数名が音色に合わせ、
踊りながら近づいてきた。
女人達は編笠の間から少し顔を覗かし、
目元は見えないが、時折、うなじが見えて、
わずかに裾が乱れながら、私の前を通り過ぎていく・・。
私は妖艶な容姿にときめきを感じて・・
このようなことを8月24日の【夢幻の『おわら風の盆』・・♪】に於いて、
私は綴ったが、私が想像した夢の世界の夢幻のひとときであった。
現(うつつ)の世界は、私達夫婦は9月1日に於いて、
初めて『越中七尾 おわら風の盆』を観た。
夕方、町並みを散策し、編笠を被った浴衣の女人、はっぴ姿の男性を見かけ、
夜の本祭りの期待を増していた。
私も観光客のひとりであるが、普段静寂な街に多くの観光客が押し寄せていた。
3日間の本祭りの間、25万人前後の方達が、おどずれる、と聴いたりしていた。
陽がくれると、ぼんぼりの淡い灯りが家並みに沿って帯状となり、幻想的な街並みの光景となった。
胡弓と三味線、そして小太鼓の音色が聴こえ、祭りの始まりに相応しい状況となった。
しばらくすると、雨が降り出して、十数分間には止(や)んだりし、
観客のサービスとして、男女一組の模範踊りが披露された。
この最中に、雨が再び降り出して、観光客共々軒下に避難したりした。
この後も降ったり止んだりとなり、夜の村雨(むらさめ)となった。
街並みを練り歩く「町流し」もわずかとなり、常設の『おわら演舞場』で拝見した後、
家内と街の中を傘を差して、散策したりした。
帰路の折、ある街の1軒のお宅の広間で、長老数名の前で、男女三組が踊りを披露していた・・。
街の中で観た人達より、格調性があり、ほのかな哀歓が漂っていた。
私が夢みた夢幻の世界と現実の現(うつつ)の世界が重なり始めたが、
十分過ぎると終わり、私達はその場を離れ、集合場所に向かった。
真夜中の12時に集合となり、金沢のホテルに着いたのが、深夜の2時半前であった。
家内と先程、おわら風の盆のこぼれ話をしていたが、
次回に訪れる時は、隣接した『おわら観光リゾートホテル』に宿泊するプランを選択し、
ゆったりとした時間の中で、情緒の世界を過ごそう、
と話し合ったりした。
私は『おわら風の盆』に魅了されるのは、
少し華やいだ浴衣で編笠の間から、少し顔を覗かし、
時折うなじが見える容姿、しぐさに惹かれる・・。
目元が見えない表情に妖艶を感じ、編笠を女人に被らせ発想した人は、
美の世界を識ったお方と思っている。
隠れた美こそ、日本古来の美の伝統に相応しいと確信している。
昨今の若い女性の多くの人達は、露出すれば妖艶と誤解しているので、
こうした『おわら風の盆』の編笠に隠れた表情の美しさ、そしてしぐさを学んでほしい、
と余計な事を思ったりしている。