宮崎県日向灘を震源とするM7.1の地震をきっかけに、
政府が史上初となる南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表、
改めて震災への備えが意識されている。
地震のリスクが高まるなか、安全確保のための備えは欠かせないが、
過去には「当然やるべき」だった対策が、
時代を経て、今は否定されているものも多々あるという。
危機管理アドバイザーの和田隆昌氏に聞いた。
「揺れを感じたら、『テーブルの下やトイレに逃げ込む』というのが常識でしたが、
テーブルの上の食器が床に散乱して、身動きが取れなくなるリスクもある。
昔は『トイレは狭いスペースに、柱が集中しているので安全だ』と言われていましたが、
最近の耐震性の高い家屋では、逃げ込む必要はない。
ドアを閉めてしまうと、建物が傾いて開かなくなり、閉じ込められることもある。
安全なのは、家具が少なく空間が広い廊下や玄関です。
頭部を守りながら廊下に移動し、閉じ込められないように、玄関ドアを開放する」
かつて常識だった「台所の火をすぐに止めにいく」のも正しくない。
「現在の都市ガスは、震度5相当を感知したら自動で止まります。
ガラスや陶器の破片が飛び散る可能性がある食器棚をはじめ、
危険物が多い台所には、近づかないほうがいい」(和田氏)
また、「地震が起きたら、すぐに避難所に行く」も正解とは限らない。
震源域が広範な南海トラフ地震では、実際の震源がどこになるかで、
住んでいる地域の被害の大きさも変わる可能性がある。
「気象庁や自治体の出す警戒レベルは、1~5まであり、
対象地域の全員避難は、警戒レベル4となります。
それ以下の警戒レベルであれば、不特定多数の人間が集まる避難所は、
感染症の温床とも言えるので、自宅の安全が確認できれば、
そのまま留まったほうがいいケースもあります」(同前)
☆水や食料に次いで用意しておきたい「非常用バッテリー」
地震で断水した際、「浴槽に溜めた水で、トイレを流す」のは注意が必要だ。
「地震で、下水管が破損している可能性があります。
特にマンションでは、流した水が下層階にあふれることもある。
下水管の破損がないか、確認が取れるまで、水は流さないこと。
汚物を脱臭し、乾燥して固める簡易トイレなどを使うといい」(同前)
そもそも「非常時に備えて、浴槽に水を溜めておく」という方法自体に和田氏は否定的だ。
「浴槽は、大腸菌などの雑菌が繁殖しやすく、
手に触れたり、目に入ったりするだけで、感染症に罹患する危険があります。
清潔なポリタンクに、10~20リットルの水道水を定期的に交換する形で、備蓄しておきましょう」
備蓄といえば、非常食の管理も重要だ。
「『非常食は、賞味期限の長いものを選ぶのがいい』と思われがちですが、
期限が10~20年と長いものだと、放置して忘れてしまい、
必要な時に期限が切れていることもよくある。
賞味期限が短いものを、定期的に買い替えるのがいいでしょう」(同前)
かつては「水・食料さえ備蓄しておけばひとまず安心」と思われていたが、今はそうではない。
「スマホは情報収集に使えて、地図・ライトの代替品にもなる。
しかし、停電時は充電できないことが想定されるので、非常用バッテリーは必須。
水や食料に次いで、必ず用意しておきたい」(同前)
時代が変われば、常識も変わる。巨大地震への備えも同様だ。
※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号・・ 》
注)記事の原文に、あえて改行など多くした。