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あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

父からの手紙/小杉健治

2008年01月29日 23時35分29秒 | 読書歴
9.父からの手紙/小杉健治
■ストーリ
 家族を捨て、阿久津伸吉は失踪した。しかし、残された子供、麻美子と
 伸吾の元には、誕生日ごとに父からの手紙が届いた。十年が経ち、結婚を
 控えた麻美子を不幸が襲う。婚約者が死体で発見され、弟が容疑者として
 逮捕されたのだ。
 一方、義理の姉を守るために人を殺した圭一は、9年の刑期を追えて
 出所した。9年の間に、職も恋人もなくし、生きる希望を持てずに
 自暴自棄な生活を送る彼は、義理の姉を探し始める。
 まったく接点がないように見えた麻美子と圭一はやがて、出会い・・・。

■感想 ☆☆☆
 大切な人の幸せを願い、彼の幸せのために自分の人生を犠牲にする。
 作者はその想いが悲劇を引き起こすこともあることを推理小説仕立てで
 丁寧に描いている。
 大切な人の幸せを願うのであれば、大切な人の幸せだけでなく
 自分自身の幸せも願わなければならない。誰かの犠牲の上に
 成り立つ幸せなどない。作者のストレートなメッセージが胸に
 ずしんとこたえる作品だ。

 どんなに辛くても、道がないように見えても、それでも自分の人生を
 歩むしかない。幸せを手に入れるために生じさせた「ちょっとした
 ゆがみ」は時を経るうちに、少しずつ少しずつ、ゆがみを大きく
 させていき、いずれ崩れるのだと思う。

 とはいえ、物語の背景にあるのは、おそらく日本が最も経済的に
 苦しんだ時代。作者のメッセージには共感するし、正しいと思う。
 けれども、共感した上で思う。では、登場人物たちはどの方向に
 歩めば、笑顔で過ごせたのだろう、と。悪いことをしたわけではない。
 怠けたわけでもない。地道に生きてきたはずなのに、
 ある日、すべてを手放さなければいけなくなってしまう。
 そういった不幸になす術もなく、巻き込まれてしまった人が
 あの時代にはたくさんいたのだと思う。そして、格差社会といわれる
 現代も、この本の登場人物たちのような人たちは、絵空事ではなく、
 実際にいるのかもしれない、と思う。そう思わせる迫力のある作品だった。