29.トニーノの歌う魔法/ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
■ストーリ
法の呪文作りの二つの名家が反目しあう、イタリアの小国
カプローナ。両家の子どもたちトニーノとアンジェリカの
謎の失踪に、大人たちは非難しあって魔法合戦をくり広げる。
トニーノの兄姉たちはクレストマンシーを呼ぶことに。
一方トニーノたちは目覚めると、人形の大きさになり、
人形の家に閉じこめられていた!
クレストマンシーシリーズ第四巻。
シリーズ他の作品の感想は
コチラ。
■感想 ☆☆☆
読みながら、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの溢れる想像力に
ただただ感嘆した作品。
すごい。すごすぎる。何を考えて生きていたら、こんなふうに
別世界を見事に構築できるのだろう。こういった作品を読む度に
「本を読むことが好きな人」が「本を書ける」わけではない、と
思い知らされて、わくわくする。自分の部屋にいながらにして
別世界を訪問できる幸福を堪能できた。
大魔法使いクレストマンシーは魔法使いが日常的に存在する
世界で、彼らが自分の能力を正しく使っているかを監視する
役職にある人のことだ。つまり「クレストマンシー」は
役職であって、人名ではない。ただし、シリーズ四作品はすべて
同じ人物がクレストマンシーに携わっているときに起こる物語を
描いている。
今回は、現存するイタリアとは少し違う「イタリア」の世界。
歌声を「呪文」として扱うことができる二家族と「ロミオと
ジュリエット」のお話を掛け合わせて構築されている。
二家族が話の中心を占めているため、登場人物がとにかく多いが
それぞれの人物を見事に描き分けていて、混乱することはない。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品には「お利口さん」は
出てこない。この作品でも登場人物はみな一癖も二癖もある人たち
ばかりで、そこかしこで余計なことをしては問題を勃発させている。
そして、それらの問題が見事にラストで結びつき、絡み合って
大円団を迎えるのだ。ひとつひとつの小さな問題を伏線として、
ラストに結びつける手法は実に見事で、終盤でワクワクしながら
ページをめくり続けることができた。