旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

ドンコたたきと龍泉八重桜と俺を酔わせる碧い海 三陸鉄道を完乗!

2019-07-21 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

今春、JR山田線の宮古~釜石間が復旧、そして経営移管を受けリアス線が一つになった。
盛から久慈まで163キロ、新たなリアス線で風光明媚な三陸海岸を北上してみよう。 

盛15:20発の2両編成の気動車は、3つ目の「恋し浜」で3分の停車をする。
太平洋を見渡す高台の駅は、旧小石浜駅を2009年に現駅名に改称している。
元々は地元のブランドほたての名称だったそうだ。 

ホームには天使のオブジェを背にして「幸せの鐘」が掲げられている。
この鐘、カップルで鳴らすと永遠に結ばれ、一人で鳴らすと素敵な出会いが訪れると云う。
停車と同時に昔のお嬢さんが我先にと「鐘」に殺到して姦しい。あっいや微笑ましい。 

三陸海岸は、宮古以南では岬と入り江が連続するリアス海岸となっている。
2両編成の気動車は、時折景勝ポイントで徐行或いは停車して案内をしてくれる。
この美しい海岸線を愉しみながら、仕込んだ "純米 酔仙" を開けてしまおうか。 

高架に上った気動車がトラス橋を渡ると、"鉄とラグビーの町" 釜石に到着となる。 

早稲田も明治も同志社も敵わなかった、松尾雄治率いる赤いラガーシャツが懐かしい。
そんな釜石の町は間もなくワールドカップで世界のフィフティーンを迎える。
間もなく歴史が刻まれるスタジアムがある鵜住居(うのすまい)は2つ先の駅だ。 

10分程の停車の後、2両編成の気動車は復旧なった旧山田線区間に入る。
鳥ヶ沢トンネルを抜けると両石湾が広がる。
沖にはオオミズナギドリ、ヒメクロウミツバメの繁殖地、天然記念物・三貫島が浮かぶ。 

岩手船越では上り列車と交換する。時節柄、向こうもシルバー層の旅行客で満員だ。  

日が傾いた頃、三陸鉄道本社が在る宮古に到着する。駅前は思いがけず賑やかだ。
2両編成の気動車は日に2本の全線直通列車だけれど途中下車、今宵この町で飲むとしよう。 

「居酒屋大ちゃん」はJAZZが流れている。若いスタッフさんがハキハキと気持ちが良い。

 

先ずはお約束の生ビール、黒皿に並んだ5品はお通し、これで結構飲めてしまう。  

 

おまかせ三点盛りは "ホヤ"、"かつお"、そして初めましての "ドンコのたたき" をいただく。
アイナメの一種らしいけど身と肝を味噌でたたく、とろりと旨い。日本酒に絶好の肴だ。
地元は菱屋酒造店の "千兩男山"、すっきりした呑口は刺身に合うね。 

 

良いのが揚がったからと、奨められて "ソイ" も切ってもらう。
"龍泉 八重桜" はすっきりした生酒、淡白な白身魚に合う。これは龍泉洞がある岩泉の酒。

 

最後に "AKABU 純米吟醸" はワイングラスが似合いそうな、ほのかな香りの芳醇旨口。
宮古からはちょっと離れて盛岡の酒。そして〆は "明太茶漬け" で小腹を満たす。
ちょっと過ぎた気もするけど、三陸の美味い肴に、旨い酒を愉しんで満足の宵だ。  

旅館の朝食を諦めて、駅片隅の0番線から06:58発の久慈行きに乗車する。
三陸鉄道開業時から活躍しているずいぶん年季が入ったレールバスだ。

休日ということもあって、小さなレールバスは呑み人の貸切状態なのだ。
トンネルと鉄橋で入り組んだ結構なアップダウンの鉄路に、レールバスは唸りを上げる。

宮沢賢治から火山島の名前にちなんだ「カルボナード」と名付けられた島越駅。
あたらしい築堤を渡ると、モダンな八角形をした塔屋の駅舎が待っている。 

塔屋の駅舎から徒歩10分ほど、小雨の中に北山崎断崖クルーズ観光船の乗船場があった。
観光船で50分、高さ200mの大海食崖が連なる迫力ある景勝を洋上から満喫できる。 

外海に出ると振り落とされそうな大きな波に翻弄される。
「やませ」特有の濃霧が断崖麓の海面を覆って、アナウンスの対象が見えない。

ウミネコと戯れながら、臨場感たっぷりの太平洋クルージングってキャッチだろうけど、
残念ながら、それは次回の課題として積み残しなのだ。 

昭和初期の優等車両をイメージしたマルーンのレトロ車両が築提を渡って来た。
オールクロスシート、大きな窓とテーブル、パーティーができそうな観光仕様の車両だね。 

長い普代トンネルを抜けると、しばらく海岸線を眺めることができる。
2両編成の気動車は、白井海岸辺りで眺望のために停車の計らいをしてくれる。 

陸中野田から鉄路は狭隘な小袖の海岸線を避け、トンネルで久慈へと抜ける。
小袖海岸は「北限の海女」で知られる。朝の連続テレビ小説のロケ地になっている。 

盛駅から久慈駅まで163キロ、4時間30分を駆け抜けてリアス線の旅を終える。
雄々しく復興が進む三陸地方は、鉄路に並行して三陸自動車道の建設も進む。
地域の暮らしが便利になるにつれ、ローカル鉄道の経営はおそらく厳しくなる。
この風光明媚な三陸鉄道が、地域の方に愛され、旅人を惹きつけ、走り続けて欲しい。 
また何時か、缶ビール片手にリアス線を訪ねてみたいと思う。

三陸鉄道・リアス線 盛~久慈 163.0km 完乗 

<40年前に街で流れたJ-POP>
時間よ止まれ / 矢沢永吉 1978