旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

薬師の湯宿で秩父の地酒を

2021-03-06 | 日記・エッセイ・コラム

 蛇紋石を敷きつめた湯舟にゆったりと浸かる。至福だ。
部屋に戻ったら、噴き出る汗をビールで宥めて、食事処でははなから地酒でいこう。
こんな時勢だから比較的近いところで戦士の休息。
マイカーで動いているし、心ある受け入れ施設はできうる対策に努めている。
大切なことは節度をもって行動することで、縮こまることではないと思う。個人的には。
平日の温泉行は、都心へ向かう通勤電車でひしめき合うより格段にリスクは低い。
っと理屈をならべたのは、温泉に浸かって浴衣で飲むという誘惑には抗えないから。

最近は吟醸モノより普通酒がマイブーム、地元の親父の晩酌の酒、まさに地酒がいい。
先ずは "秩父錦"、コクとキレのある淡麗辛口を一合徳利で2本、冷やでいただく。 
盆には "なまこ酢" の先付、前菜、"本鮪" やら "湯引き鯛" やらの刺身盛りが収まる。
なかでも "鰯梅煮" が美味い。街の立ち飲みカウンターなら、アテはこれだけで十分だな。

強肴は "牛しゃぶ野菜豆乳だれ"、むしろすき焼き肉のようなロースだけどね。
"きじのしゃぶしゃぶ" を一人前だけ追加、淡白な肉がポン酢ともみじおろしで美味。

椀物は "鶏餅清し汁仕立て"、蓋をとると三つ葉と柚子の香りが広がる。 
凌ぎは、織部の器に "鰻 海老 椎茸あんかけ"、これ初めての味かな、楽しい。

"武甲正宗" も本醸造をいただく、すっきりした喉越しのやや辛をやはり徳利2本。
焼物は "甘鯛白子焼き"、菜の花を添える。揚物は "わかさぎ"、たらの芽と蕗のとうが
脇を固めて梅塩で美味い。其々脇役が春を感じさせる。その苦味に酒がすすむ。

なんだか二軒めで飲み直している感じのラインナップを愉しんでいる。
竹の子、湯葉豆腐、わらびを添えた "津軽鶏治部煮" が煮物、趣向を凝らした酢物で〆る。
もうこれ以上は入らない。心づくしの料理をアテに秩父の地酒を堪能した湯宿の夜だ。

夜明けとともに布団を這い出て露天風呂を独占するのは何時ものこと。
小鳥のさえずりと横瀬川のせせらぎを聴きながら、ついつい長湯になってしまう。

思わず朝ビールを飲みたくなるような朝食を済ませて部屋に戻る。
今更ながらベランダの露天風呂を思い出し、檜の香りに包まれて樽の中にまどろむ。

決して洗練された湯宿ではないけれど、お宿の方の細々とした気遣い、心づくしの料理、
なめらかで優しい湯、秩父の酒、どれをとっても満足な滞在なのだ。
カタログ的になってしまった投稿に反省しつつも、再訪・推推奨意向大の宿なのです。

もしもピアノが弾けたなら / 西田敏行 1981