旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

街角の蕎麦屋にて「二七市場で二八そば」

2021-07-14 | 日記・エッセイ・コラム

 雨が降ったり止んだり、じめッとしたこんな日はごま汁の “サラダそば” がさっぱり美味しい。
生真面目なこの老舗蕎麦屋にあって、ほとんど唯一の変わり蕎麦メニューなのだ。
それにしても泣かせるのは、たっぷりのクラッシュアイスで満たされたお冷やのグラス。
独特なフォルムにCoca-Colaの筆記体、昭和の頃にはどこでも見かけたグラスが懐かしい。

近郷農家の奥さんが朝採りのみずみずしい大根を差し出す。
旧中山道浦和宿の中心部であったこの辺り、豊臣政権の時代から二・七の市が立った。
往復二車線の県都にしては控え目なメインストリート、中山道にこの蕎麦屋さんはある。

店の品書きには “カレーライス” と “カレー丼” がある。食べ比べてないので味に違いがあるかは分からない。
ボクの大好きな “カレー丼” は、出汁がきいて程よいとろみ、鼻腔をくすぐる香りがたまらない。旨いのだ。

東京都の緊急事態宣言の谷間、この街の飲食店でも酒類の提供を解禁した。
二人で訪れた休日、久しぶりの蕎麦前のラガーが美味しい。肴は “板わさ” と “味噌でんがく” なのだ。

そして〆の “ざる” を一枚、ちょっぴり辛味のきいた “なめこおろし” でずずッと啜る。至福のひと時だね。
訪ねるたび、決まった時間に決まったお客さんが蕎麦を楽しんでいる。老夫婦とおひとり様が多いかな。
一歩入ると高級マンションやお屋敷が広がる辺りだから、なじみ客が多いんだろうね。
こんな店にはいつ迄も残って欲しいな。軒下の紫陽花に店主夫妻の心遣いを感じる街角の蕎麦屋さんだ。

君に決定! / 田原俊彦 1981