太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

「DEPARTURE」

2017-11-28 19:44:07 | 勝手な映画感想
日本のドキュメンタリー映画の「DEPARTURE」を、ホノルル美術館の劇場で見た。

本木正弘主演の「おくりびと」と英語のタイトルは同じだ。

旅立ち、という意味がある。


ネモトさんという禅寺のお坊さんが、自殺防止の活動をしている。

ネモトさんが5年生の時、やさしかった叔父さんが自殺をした。

そのあと両親が離婚し、母子家庭になり、ネモトさんはグレた。

タバコを吸い、夜徘徊し、そしてバイクで大きな事故を起こした。

死線をさまよい、3ヶ月以上たって退院したときには憑き物が落ちたように冷静になっていた。

入院生活で出会った看護師と結婚し、母親がみつけた「僧侶募集・経験不問」に応募し、僧侶になった。



「DEPARTURE」は、ネモトさんが寺で催しているワークショップだ。

・死ぬ時に残しておきたいものを3つ付箋紙に書く

・やりたいことを3つ書く

・大切だと思う人を3人書く

9枚の付箋紙を眺め、その中から3つ選んで捨てる。

6枚の付箋紙を眺め、その中からさらに3つを捨てる。

3枚の付箋紙の中から、ひとつ捨てる。

2枚の中から、ひとつを捨てる。

最後に残った1枚を、まるめて、捨てる。


「これが、死、です」


ネモトさんが静かにそう言う。


ネモトさんは講演に飛び回り、1日に50通以上のメールを処理し、朝から夜までかかってくる電話に応対し、

新幹線に乗ってでも必要だと思われる人に会いにゆく。

まだ30代だが、過労で心臓発作を起こしたことがあり、今でも心臓の血管がつまり、肺が肥大している。

それでも容赦なく、「死にたい」「電話がほしい」「もうだめだ」という声がネモトさんに押し寄せてくる。




映画の途中で、あまりに重くて私は席をたちたくなった。

ネモトさんに助けを求める人のほとんどは、ウツのような状態になっており、

私はそれが隣に座っている夫と重なって、いたたまれないような気持ちになった。

「この映画、もっと見たい?」

夫に聞くと、

「見たいよ。見たくなかったら外を歩いてくるか、美術館をみてていいよ?」

まあ、夫がそう言うなら、もう少し見てみるか。




映画のあと、買い物をして帰りの車の中で、映画について話した。

「誰か身近で自殺した人、いる?」

「うん、前の夫」

「えっ!知らなかった、事故だと思ってた」

「あれ、言わなかった?話したとばかり思ってた」

そんなこともあった。






「死にたいと思ったことある?」

夜、歯を磨きながら夫に聞いた。

「あるよ」

夫はコンタクトレンズを外しながらそう言って

「でもあなたに会ってからは1度もない」

と言った。

それはよかった。

「私は死にたいと思ったことはないなあ」

「あなたはハッピーパーソンだから」

いや、そうじゃない。

なにか終わってほしいことがあって死んだとしても

終わるのは終わってほしくないものであって、ほんとうに終わってほしいことは終わらないのだし、

それにきっと私は、そこまでの孤独や絶望を知らずに生きてきたということかもしれない。





命を削りながら人を救うネモトさんには頭がさがる。誰にでもできることではない。

けれど、もっと自分の人生を楽しむこともしてほしい。

2歳の息子さんが大人になるまで健康でいることは、人を100人救うことより大事ではないか?

と思うのである。









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