佐佐木幸綱選
光ごと鋤き込まれたる穭(ひつじ)田の暮れれば動き出しそうな襞(ひだ) 京都市 八重樫妙子
一ミリも「様」と思っちゃいないよとせせらわらっているような「様」 高岡市 池田典恵
一首目、俳句を始めてから知った言葉がこの穭田です。稲刈りが終わって切り刈ったところからまた新芽が生えてきた様子を、このように呼ぶのですって。面白いですね。二首目、形だけ敬称の「様」をつけただけの、心が伴っていない「様」は、なんとも無様なのでしょうか。日本人にはそういうこと、よくありますよね。
高野公彦選
しわぶきのひとつだになき無言館奪われたもの惜しみつつ巡る 東京都 細井恵子
「危機感を共有せよ」と危機感のない大臣が国民に言う 観音寺市 篠原俊則
一首目、学徒出陣で美大生が多く出征しましたが、戦死した彼らの残した作品を展示しているのが「無言館」です。経営難に陥っていますが、その作品群は、もし生きていたらと思う巨匠になったかもしれない作品で、悔しさと悲しさと涙なしには見られないものです。どうか、この美術館を後世に残してほしいと願います。残さなくてはいけないのです。絵は、人に見られてはじめて存在価値が生まれます。彼らの残した絵を忘れてはいけないのです。しわぶきとは、咳のこと。しわぶきと言うと、なぜだか素敵な響きがあるものですね。二首目、本当にその通りです。会食が政治家の常識だと思っているおやじ政治家たちが何を言っても、もう国民には響きませんよ。
永田和宏選
ナース言う「気持をわきに置いてただ処置をするのみまるで戦場」 茨城県 原里江
言う方と言われた方と寂しさはどちらが強い「帰省はやめて」 奈良県 岡田和代
あんなにも大騒ぎした第一波グラフの山の何と小さき 川崎市 高橋葉子
一首目、去年からずーっと医療従事者が大変だと言っていて、国が何もしないまま、今はすでに医療崩壊が起きている、それでも彼ら彼女らは必死で処置をしている、本当にごめんなさい。コロナ患者を受け入れればそれだけ経営難がひどくなるというのを国や自治体は何もしないで、要請するだけ。本当にひどい!すでに介護職の人たちには感染を恐れて離職者が増えているとのこと。介護職看護職を軽視してきた罰が、いまつけを払わされているってことでしょうか。どれだけ大変な職業か、入院して見ないとわからないでしょう。そう、その入院すらできなくなってきてますよね。もしかしたら医療ドラマの撮影も難しくなってしまうのではないかと、別の方からも危機感を覚えてしまいます。三首目、去年のゴールデンウィーク前の緊急事態宣言に比べたら、緊急と感じていませんよね。でも、その百倍も危機なのに、このままいけば、地球上から人類がいなくなる?オリンピックがどうのなんて言っていられないはず。国の危機に、国会を臨時で開きもせず、のんきに会食してきた議員たち、許されると思ってるのかな過去には戻れないけれど、散々言われてきた医療崩壊、自己に合っても別の病気でも治療が受けられなくなるってことですよ。怖いのは自宅コロナ死。残された飼い猫はどうなっちゃうのかしら。
馬場あき子選
グリューワイン愛して失うより慎めと烈々たるメルケルさん沁みくる 仙台市 浅川照夫
一日分値引かれた魚と一日分老いたわたしがスーパーで会う 和泉市 星田美紀
一首目、メルケルさんの言葉は、聴く人の心に響きます。彼女は科学者でもあるから、説得力が違う。日本ではそういうリーダーはいないのでしょうか、この先、厳しいです。二首目、不思議な感覚を覚えます。それこそ、時間というものの感覚が、まるでSFみたい。めまいを覚えそうな、スティーブン・キングかシドニー、シェルダンかと思ってしまいそうな時間のとらえ方が凄すぎです。面白い!