原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

近代市民法の基本原理とその修正(その2)

2007年12月18日 | 左都子の市民講座
 前回「近代市民法の基本原理とその修正(その1)」において、近代市民法とは何か? 及び その基本原理のひとつである“所有権絶対の原則とその修正”について既述しました。
 今回(その2)においては基本原理の二つ目“契約自由の原則とその修正”について解説しましょう。

 ○契約自由の原則とその修正

   契約とは何か?
    売買契約を例に説明してみよう。

         商品を売りたい
     売主     →     買主
             ←
         商品を買いたい

    通常、両者は利害対立関係にある。(あなたの得は私の損)

    このような、方向の異なる複数の意思が“合致”することにより成立する
    法律行為のことを “契約” という。

    法律上の契約には上記の“売買契約”の他、“賃貸借契約”“婚姻契約”
    (判例上、“婚姻予約”という用語が使用されている。) “雇用契約”
     等がある。

   「身分から契約へ」
     アンシャンレジウムの時代
      人の権利、義務は人の“身分”から発生していた。
       (※アンシャンレジウムとは
          1789年のフランス革命前の絶対王政を中心とする
          封建的な旧体制のこと)
     市民社会
      人の権利、義務は個々人の“自由な意思”により発生する。

    近代市民法の根本理念  = “自由と平等” であるならば
               ↓
    個人の経済活動は自由に行われるべき
         = “自由放任主義”  “自由競争”
               ↓
        契約自由の原則
          ①契約締結の自由
          ②契約相手方選択の自由
          ③契約内容の自由
          ④契約方式の自由

    しかし…
     経済的強者は経済的弱者に対し、その権力を利用して自分にとって
     有利な契約を結ぶようになった。
      例: 企業 対 労働者 の雇用契約
          労働者は、低賃金、長時間労働等、不利な条件で雇用契約を
          締結しなければならない場合が多い。(今なお…)
               ↓
     契約自由の原則も、“経済的弱者の保護”“公共の福祉”の観点から
     一定の制限を受ける。
      例: 労働基準法第13条
          この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約
          は、その部分については無効とする。…

   ★契約締結の自由の制限

     例: 電気、ガス、水道等、公共性の高い事業
         会社側に一定限度、契約締結の拒否権はない。
         一方で、利用者側は契約内容が気に入らなくても、(例えば
         東京に住むと㈱東京電力と)契約するしかない。
     例: 医師
         医師法第19条1項
          正当な事由がない場合、診察の拒否権はない。
          (人命にかかわるため)
     例外: NHKの受診料契約
          放送法第32条1項により、
           受信者は、NHKを見たくなくても契約を締結しなければ
           いけない。  → (情報選択の自由に反する……。)

   ★契約内容の自由の制限

    「附合契約」とは
      当事者の一方が決めた契約内容に、相手方が事実上従わなければ
      ならない契約
       例: JRやその他私鉄との運送契約
           料金につき利用者は議論の余地がない。
      一応、一般利用者が不利にならないよう国家が介入し、
      公益事業法等の法律により、契約内容をチェックしている。

    「普通取引約款(普通契約約款)」とは
      ある特定種類の取引を画一的に処理するためのあらかじめ定められた
      型の一定した契約条項のこと(各種契約書の裏面に細かい字で書かれ
      ている契約条項のこと)
        
       利点:同時に多数の人と契約することが可能 → コスト低減
                                     不公平解消
       問題点:拘束力はあるのか?
           契約した以上、約款の内容を知らなくても拘束されるのか
           (商法上、学説は分かれる。)
      ( 皆さん、面倒でも約款はよく読んで、もしも不服があるならば
        クーリングオフ期間内に対処した方が無難だと私は思います。)

  



 さて、いよいよ次回は「近代市民法の基本原理とその修正(その3)」において残りの“過失責任の原則”を取り上げ解説します。引き続きお楽しみに!