原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

海外帰国生特別選抜枠の存在の是非

2007年12月27日 | 教育・学校
 中高、大学の入学者選抜において、大抵の学校には「海外帰国生特別選抜枠」がある。「海外帰国生特別選抜」とはすなわち、保護者の転勤等の事情により諸外国に滞在し、その国の教育機関に一定年数以上在籍して帰国した生徒、学生に対して一般選抜外に特別選抜枠を設けて優遇し、選考を実施する制度である。
 この優遇制度の存在が世間で議論の対象となる機会はほとんどなく、当たり前の制度として昔から平然と存在し続けているのであるが、皆さんはこの制度に関して如何なるお考えをお持ちであろうか。

 この優遇制度の存在理由として、相異なる二通りの考え方ができるかと推論する。

 そのひとつは、海外帰国生はハンディを背負っている、すなわち入学者選抜における弱者であるとする考え方である。
 諸外国の教育制度は我が国のそれとは相当異質のものであろう。そういった異質の教育を受けて帰国した生徒、学生に、一般生徒、学生と同じ土俵で一般入試にチャレンジさせるのは酷であるため、特別選抜枠を設けて学科試験を免除し保護しよう、とする考え方である。

 もうひとつは、上記とは正反対の考え方である。すなわち、海外帰国生は海外滞在経験により滞在国の言語に秀でている、また、家庭環境においても経済的、生育環境的に比較的恵まれた家庭で育った生徒、学生が多い等、入学者選抜における強者である。そのため、学校側がこぞって海外帰国生を確保したいともくろみ、特別選抜枠を設けて優遇しているという考え方である。

 実情はどうであろうか。学校側に当制度の存在理由について確認した経験はなく推測の域を超えていないが、おそらく上記の両側面が存在理由として成り立つのではなかろうか。

 さてここより私論になるが、この「海外帰国生特別選抜枠」は今や時代錯誤の制度ではなかろうかと私は考えている。
 海外帰国生の存在が数的に少なかった2,30年位前までの時代は、この制度の存在意義はもしかしたらあったかもしれない。ところが、これだけ国際化が進展している今の時代、海外帰国生は私の周りを見渡しただけでも星の数程存在する。現に我が甥も現在米国在住の小学生である。(ただし私の甥一家は米国永住の予定であり、帰国の意思はまったくないのであるが。) 滞在年数にもよるが、2,3年間の短期滞在の場合、帰国後、一般入試に十分耐え得るのではなかろうか。 しかも、聞くところによれば、大抵の海外転勤家庭は事業所所定の宿舎に住み、子どもは日本人学校に通い、日本人教師の指導の下、日本とほぼ同様の教育を日本語で受けるらしい。滞在国の言語に触れる機会がほとんどないまま帰国した生徒、学生を、特別枠を設けてさらに保護する必要性があるのかどうか。
 こんな話も聞く。日本における厳しい受験戦争に勝ち抜くのは大変だから、「海外帰国生特別選抜」をまんまと利用して(いわゆる)一流校へ入学することをたくらみ、父親の単身赴任で済むところをわざわざ子どもも2年間だけ海外転勤に連れて行く、というような話も…。これでは誰が考えても制度の趣旨が本末転倒であろう。

 海外帰国生の優遇よりもこの国が優先するべきは、在日外国人(特に発展途上国出身)の子ども達に対する教育の充実ではなかろうか。意思の高い在日外国人の子ども達が満足な教育が受けられるべく教育の途が開かれることにこそ、今後私は期待したいものである。
   
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