原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

振り込め詐欺多発の中、ATMで困惑する人を助ける勇気

2017年04月13日 | 時事論評
 昨日、私が自宅近くのATMへ行った時の事だ。


 参考だが、近年警視庁による振り込め詐欺撲滅対策作戦により、振り込め詐欺被害総額に於いては一時よりその金額が多少減少しているようだ。 とは言えども、その被害総額は406億円超に上っているとのことだが。
 ただし被害件数に関しては、平成28年の振り込め詐欺全体の認知件数は前年に比べて約2%増と、現在尚増加の一途を辿っているとのネット情報である。
 

 さて、私が昨日行ったATMは金融機関内に設置している形式ではなく、独立小部屋形式というのか、要するにATMだけが2台設置されていている建物だ。

 その建物内にも、振り込め詐欺撲滅目的の目立つ色彩の大きなポスターが所狭しと何枚も貼られている。
 「ATM操作中に後ろや横から話しかけられても無視して、すぐに電話で知らせるように」「還付金が返ってくるなど大嘘」等々、特に振り込め詐欺のターゲットとなり易い高齢者相手に強いメッセージを訴え掛けているようだ。

 私がそのATM建物に入った当初、ATM操作中の人が2名、順番待ちの人が3名の状態だった。 その一番後方に並ぶ形で私は順番を待った。
 1名が操作を終了し、順番待ちの人に入れ替わった頃だっただろうか。
 ATM操作中のもう1名の高齢ご婦人が困惑したような様子で、「すみません。どうすればよいか分からないのですが…」と不安げに後ろを向かれる。

 当時室内にいたのは合計5名だったが、皆さんの反応は無い。 その時室内の一番後ろにいた私の心が、咄嗟に「助けてあげねば!」と私の体を押し動かした。


 ここで参考だが、どうも私はそういうシチュエーションに直面すると、「私こそが助けねば!」と“正義感に燃える”キャラのようだ。
 いえ、そのシチュエーションが例えば「海に飛び込まねばならない」だとか「火中に身を投じねばならない」等々、命の危険が伴う場合は決して身を挺する程の無謀者ではない。  ただただ、自分の手に負えそうな事案の場合、率先して行動を起こすタイプかもしれないとの範疇に過ぎない。
 例えば、少し前のエッセイに綴った「体育館内走路で遊ぶ子供達を叱った事件」なども、その我がキャラに基づく行動だったと言えよう。

 生まれ持って私がそのキャラだったのかと言えば、決してそうではない。
 自己分析によれば、大人になり社会に出て以降、特に職場の上司に任命されたり高校教員を経験したりする事により、あくまでも後天的に “ここで(特に“弱き他者”)を助けるのは我が使命!”と自然に習得した資質であると考察する。


 ATM内の高齢婦人に話を戻そう。

 私がご婦人に近づき「どうされましたか?」と話しかけると、やっと少し安堵された様子だ。
 「お金が機械に入らないのですが」と私に伝えつつ、「嫁が今日病気で寝ていて来られなくて、仕方がなく私が来たのだけどどうしても機械の扱い方が分からなくて…」とおっしゃる。

 「それは大変ですねえ」などと応えつつ、我が脳裏には一瞬周囲のポスターの文言が過る。「ATM操作中に後ろや横から話しかけられても無視して、すぐに電話で知らせるように」等の…。
 これ、下手をすると後にATM部屋へ入って来た人々が一見したら、まるで“振り込め詐欺犯”の私が高齢婦人に横で詐欺を働いている実行犯と見間違わないだろうか?!? 
 ああ、そういう事ね。 誰もご婦人を助けないのは、皆さんそれを危惧しての行動なのか…… 

 と思っても後の祭り…、 ではなく、今の私の任務はATMに戸惑う高齢婦人を今助けることだ! と我に帰り、今一度ご婦人が実行されようとしているATM操作を尋ねてみた。
 そうしたところ、ご婦人から「入金したいがお金が機械に入らない」なる回答が来た。 ここでやはり私が画面を見ずして次の動作に入れないと判断し、(周囲には詐欺犯と疑われても仕方ない!と腹をくくり)ご婦人にもっと近づき操作中の画面を横から見た。 そこで判明したのはご婦人が通帳を機械に投入していない事態だ。 それを指摘したのだが、どうしてもご自身で複数ページに渡る通帳を狭い空間に投入する事が叶わない。 これまたやむを得ない。私が手助けしてやっとこさ通帳を機械へ投入出来た。 
 その後ご婦人の機械への現金投入が叶ったのだが、無情にも機械が画面で聞いてくるのが、「入金金額が正しいですか?」だ。 要するに釣銭が欲しい顧客に対応せんとしてそれを聞き返しているのだろう。 またもや、私が具体的金額をご婦人に告げねばならない。 「入金は10万円でよろしいでしょうか?」 ご婦人応えて「はい。そうです。」 「その場合は、この『確認』ボタンを押すと取引は終了します」と応え、ご婦人にその『確認』ボタンを押すように指南した。
 取引終了後、通帳が機械から出て来てご婦人がそれを手で取るまで見守った後、「お忘れ物はございませんか?」と声を掛けると、ご婦人は「嫁が病気で私が今日は来なくていけなくてね」を繰り返し私に伝えてくれた。 「どうかお大事に」と声掛けすると、ご婦人はATMを去って行かれた。
 
 その後、ATM部屋の我が順番待ち場所へ戻ろうとすると、既に後に来ていた3名の客が並んでいる。 その後ろに並び直しつつも、 どうやら、私を「振り込め詐欺犯」と感じた人物は幸いにもいなかった様子で安堵した。


 最後に、原左都子から金融機関に「振り込め詐欺」撲滅高齢者対策に於ける今後の提案をしよう。

 真に金融機関に於いて「振り込め詐欺」を撲滅したいのならば、まずは高齢者の行動様式から理解するべきである事に間違いない。
 現在義母及び実母2名の高齢者保証人を担当し日々関わっている私の経験から物申すならば、貴方達が考えているより高齢者が置かれている立場はずっと厳しく難しいものがあろう。
 金融機関は高齢者の「認知症状」や「耳の聞こえの悪さ」「心身の老化具合」等々を実体験として如何程に捉えているのだろうか!?!
 その実態を金融機関が我が事として理解出来ているのならば、既に不具合を生じている高齢者はもちろんの事、そうではない高齢者であれ“ATM操作”を課す事とは元々無謀であり、そもそもそれ自体に無理があることに気付くはずだ。

 どうか、(特に大手金融機関は)安倍政権に操られるままに安穏として、自らの業務簡略化を最優先するよりも、高齢者顧客を筆頭として真に“弱者”に優しい組織として生まれ変わって欲しいものだ。

 そんな金融機関の今後の姿勢こそが、振り込め詐欺撲滅に直結するものと私は信じる。