原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

再掲載 「運命に翻弄されたサクセスストーリー」

2019年09月05日 | 時事論評
 (写真は、2008年11月に旅したインド・デリーの街角にて撮影した一風景。)


 今回の再掲載は、過去に見た映画の評論ものだ。

 2008年11月に知人美術家氏の国際美術賞授賞式出席のお誘いを受け、二人でインドへ旅だった。
 実に実に感慨深いインド旅行だったのだが。

 その5か月後に、米アカデミー賞 作品・監督賞等8部門を独占した映画「スラムドッグ$ミリオネア」が日本でも上映された。
 同美術家氏より「インド旅行を懐かしむために是非見に行きましょう!」とまたもやお誘いいただき、観賞した映画である。


 それでは、本エッセイ集2009.04公開の「運命に翻弄されたサクセスストーリー」評論エッセイを以下に再掲載させていただこう。

 この映画はむしろ“お兄ちゃん”が主役の、悲劇の物語かと私は見た。
 今年の米アカデミー賞で、作品、監督賞等8部門を独占した映画「スラムドッグ$ミリオネア」の話だが。
 昨秋インドを旅行した私は、同行させていただいた美術家氏のお誘いを受け、全編がインドで撮影された同映画を鑑賞した。

 インドの深刻な貧富の格差の現状。 それにもかかわらずフレンドリーで笑顔を絶やさないインドの中間層以上の人々や、物乞いに暇の無い子供達、道端に座り込んで日がな一日暮らす貧困層の人々を昨秋現地で垣間見てきた私は、あの懐かしい光景が映画で再現され、インド旅行がフラッシュバックすることを楽しみにしていた。

 今回のアカデミー賞受賞作品はインドのそのような情景を描くと言うよりも、私の予想に反して作品としてのストーリー性が強いものだった。
 まだご覧になっていない方々のために、私観を交えながら以下にそのストーリーを大雑把に紹介してみよう。

 日本でもおなじみのテレビ番組「クイズ$ミリオネア」のインド版で快勝を続ける主人公ジャマールは、史上最高の賞金を目前に不正を疑われ逮捕される。 スラム育ちで無学な青年になぜ難題が解けたのか。 尋問を通じて彼の過酷な人生が明らかになっていく。

 子ども時代の宗教闘争により愛しい母親を殺され、街を焼かれた幼いジャマールと“お兄ちゃん”が2人で逃げ惑う時に、少女ラティカと知り合い3人で連れ添うことになる。 この時、空腹にあえぐ子供達にコーラを与える親切な大人が現れる。3人はその大人の住処へと向かうのだが、そこには大勢の子供達が匿われていて、食料を与えてもらっていた。
 喜んでそれを食べたまではよかったのだが、実は、この大人は身寄りの無い子どもを餌に物乞いをさせて稼いでいる悪党だったのだ。 
 (インドでは、子どもが物乞いをする時に、不幸であればある程多額のお金を恵んでもらえるため、五体満足な子どもの手足を切り落とす等の手段で故意に不具な体を作り上げる、という類の残酷な話を、昨秋のインド旅行に関連して私は既に見聞していた。)
 この悪党の家では、歌が上手な子の目に薬品を入れて失明させ、“盲の歌手”を作り上げて物乞いをさせる残酷な場面が描かれていた。 
 ジャマールの“お兄ちゃん”は、貧困の中で小さい頃から培ってきていたガキ大将の“ボス的気質”が悪党に気に入られ、子どもであるにもかかわらず悪党の手下として働かされる。 歌のうまいジャマールの目を潰して“盲の歌手”にするためにジャマールを呼ぶよう悪党から指示された“お兄ちゃん”は、隙を見てジャマールを連れて逃げる。 これを追いかけるラティカだが、ラティカのみが取り残されてしまう。後にラティカは“女”である事を稼ぎの源として、悪党に利用されることになる。
 ジャマール兄弟は、その後も“物乞い”と“盗み”を収入源として“たくましく”生き延びる。
 (インドの世界遺産「タージ・マハル」では土足禁止なのだが、観光客が脱いだその靴を盗んでは2人で売りさばいている場面が私には滑稽だった。さすがに現在ではこのような“盗み”を避けるために?、靴は脱がずにビニールで靴をカバーして入場したような記憶がある。)
 たくましく“稼いだ”2人はある程度貧困から脱出して、時は思春期になった。ジャマールはどうしてもラティカが忘れられない。そんなジャマールに「ラティカのことはもう忘れろ!」と釘を刺す“お兄ちゃん”だが、結局はジャマールと一緒にラティカを探す旅に出る。 悪党に「女」として利用されダンサーになって稼がされている美しく成長したラティカを2人は発見する。ところが、悪党に見つかってしまった2人はもう逃げ場がない。その時、“お兄ちゃん”が悪党を銃で撃ち殺す決断をする。
 ラティカを連れて逃げた3人だが、酒に酔いしれた“お兄ちゃん”は、幼き日に母親を殺した敵も撃とうとして更なる悪道へと入り込まざるを得なくなる。そんな自分の行動を露知らないジャマールに、「お前は消え失せろ!」と言い放った“お兄ちゃん”はラティカと共に部屋に入り込み、ドアを閉ざす。
 既にラティカに恋心を抱いていたジャマールは、気性が激しく女を欲している“お兄ちゃん”に対して嫌悪感を抱き、兄とラティカとの関係を想像しつつ、その後最愛のラティカを自分から奪った兄を恨み続ける人生を辿る。
             (中略)
 さらに年月が経過し、どうしても恋するラティカに是非見て欲しいがために、テレビの超人気番組の「クイズ・ミリオネア」に出場したジャマールだったのだが……
 (現在上映中の映画配給会社の知的財産権に配慮し、本ブログではこれ以上のストーリーの公開は避けます。)

 天性の頭の良さに自分自身が気付かずしてその恩恵を受けつつ歩む人生の中で、あくまでもラティカへの純愛を貫くがために兄を憎み続けるジャマール。
 対比的に、貧困の中にあって幼少の頃より持ち前のリーダーシップ力を活かし、貧困から脱出しようと積極的に目論みつつ、自らの野心を貫こうとして年齢を重ねる毎にどっぷりと悪道に染まり行く“お兄ちゃん”。
 この映画は、対照的な兄弟の2人を描いた物語であったと私は考察する。
 最後の最後まで弟のジャマールとその弟が愛するラティカを守り抜き、2人の幸せを願い続けた“お兄ちゃん”の思いが、物語のエンディングまで弟のジャマールに通じないまま映画は終焉する…

 この映画の主役ジャマールにとっては、愛し続けたラティカを最後にゲットできて、まさに“サクセス・ストーリー”だったのであろう。 
 だが、何となく、ジャマールの“お兄ちゃん”と私の生き様が重複する部分があるように私には思えてしまうのだ。
 そんな“お兄ちゃん”の方に感情移入してしまった私は、見終わった後にこの映画を心が痛む「悲劇」と捉えてしまうのである…。

 インドへ同行させていただいた美術家氏のお誘いのお陰で、今回観賞する機会が得られた。
 ただ、内容的には本文に記した通り予想以上にストーリー性が強く、私にとっては意外な作品だった。

 (以上、本エッセイ集2009年4月バックナンバーより再掲載したもの。)



 話題を現実に戻そう。

 私も散々海外旅行へ出かけたものだが、当然ながらその「旅」ごとに思い入れがある。

 独身最終期に米国に暮らす姉を訪問する目的で旅に出た際、姉の友人男性との国際恋愛を経験している。 (この“悲恋経験・ベトナム戦争が絡むドラッグ問題”に関しては、本エッセイ集バックナンバー「彼の名はジョニー(2部作)」にて綴っておりますので、よろしければご覧下さい。)

 あるいは、やはり上記登場の美術家氏のお伴で、地球の反対側 アルゼンチン・ブエノスアイレスまではるばる出かけた。 国際線乗り継ぎ片道35時間!との超過酷な旅程をこなして旅したかの地で、現地の人々の素晴らしき歓待を受けた。 実に思い出深い旅だったものだ。

 19歳時に米国カリフォルニア大学バークレー本校へ「1ヶ月間ユニバーシティ・エクステンション」授業に参加し、大学の寮で夜な夜なディスコダンスに興じた話題も綴った。

 近隣国では、やはり当該美術家氏がソウルにて「アートフェア」にご自身のギャラリーを出展した際に、それを訪問する目的で当時高校生だった娘を連れて出かけた。 我々日本人母娘に、ソウルの人々がどれ程親切に声をかけて下さったことか。 二人で地下鉄に乗っていると現地のご婦人から“乗換方法”を尋ねられたりした。 我々が日本人である事を告げると、フレンドリーに「こんにちは!」と挨拶して下さったりした。
 現在政治上韓国と我が国の関係が悪化するのを、見るに忍びない…

 香港へは、20代前半期に友人と2人で出かけた。 未だ香港が英国領だった頃の事だ。
 これまた現在の中国統治下香港の動乱を見るにつけ心が痛む…

 まだまだ、各国旅行にて様々なエピソードがあるのだが…

 そして、インド。
 これ程思い出深い旅は他に無い!、と表現出来る程の衝撃だったものだ。 想像を絶する程の“貧富の格差”を目の当たりに出来た旅だった。
 やはり個人旅行だったことが幸いしてこそ経験可能な、それら現実インド社会での実体験だった故だろう。 いや、実際この私が50代にインド旅行を体験しなかったとすれば、その先くだらない“軽薄人生”を貫きかねなかったような気すらする。
 (詳細は、我がエッセイ集「旅行カテゴリー・インド編」に於いて公開しておりますので、よろしければご覧下さい。)

 おっとっと。
 過去に見た映画の評論をするつもりが、すっかりと我が海外旅行体験に変貌してしまった事をお詫びします。

 ただ実際問題、真実の“サクセス”とは、運命に翻弄されてこそゲットできる感覚があるような気もする…。

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