我が子の「お抱え家庭教師」である私は、娘が中学生になった頃より将来の職業選択に際してある一つの事をアドバイスし続けている。
そもそも私自身の職業選択の失敗から、“基本的に自分が好きな事、やりたいと思う事を職業とするべき”との確固たる考えがある原左都子だ。
私が職業選択に於いて如何なる失敗をしたのかに関しては、当エッセイ集バックナンバーにおいて幾度となく述べてきている。 ここで手短に記すと、若気の至りで未だ周囲への反発力が備わっていなかった私は、不覚にも親の意向に沿う道を選択してしまったのである。
「確固たる専門力を身に付けて生涯自立して生きよ」 これが我が親の口癖だった。
我が愚かな親はその考えを未だ高校生の私に強要し続けたのに加えて、大学は地元国立限定、可能ならば理系、国家資格が取れる職業等々… 実に細かい制約の下に進路を決定せざるを得なかった私の行く先は、自ずと限定されていたも同様だ。
ただ当時の私の脳裏には「この職業だけは絶対に避けたい。これを選択したなら私には未来がないも同様」とイメージできる職種があった。 それは「看護士」である。(参考のため、当時は「介護士」なる職業は未だ存在しない時代背景だった) それだけは何がなんでも回避せねばとの思いは強靭で、「看護士」への道程のみは避け通してきた。
結果としては医学方面への進路を選択して地元大学で学業に励み国家資格を取得し、その後上京して民間企業へ就職した私だ。 何故民間企業を選択したのかに関しても、臨床医療現場である「病院」への就職を是が否でも避けたかったからである。(これに関しても、既にバックナンバーに於いて記載済みだが。)
「看護士」「病院」の何がそんなに嫌なのか?
おそらく私が抱くイメージとして、とにかく“暗く”て“地味”。 基本的に派手好きの身としてはそんな場に日々出向く訳には到底いかない。 加えて天邪鬼の私は「人の命を助ける」だの「社会貢献度が高い」だのとの、大それたレッテルを貼られる職種には大いなる違和感を抱かされる。
しかも、たちが悪い事に「看護士」とは過ぎ去りし時代に“白衣の天使”などと美化され語られてきた割には、現実労働の過酷さと言えば世のすべての職業の1、2位を争う厳しい現状であろう。
私事が長引いたが、そんなこんなで我が脳裏には娘の職業選択に際しても、親の立場から是非共アドバイスしておきたいことがあったのだ。
我が子中学生の頃から言い聞かせているのは、「看護士、介護士のみは貴方の職業選択肢から何が何でも外しなさい」
このように表現すると“とんでもない親”との大いなる誤解を生みそうだ。 だが、私自身は病院勤務経験がないものの、パラメディカル分野の専門職として長年従事してきた経歴から、我が娘には医学関係職種への“適性”が一切ないと判断するのが第一の理由である。
(残念ながら「介護士」分野には私は精通していないが)「看護士」に関してはその学業の過程からして大変な時間数を必要とする事を、同じ医学分野の専門資格を取得している我が身に照らして理解している。 過酷な病院実習もこなしつつ、大学生の立場であるなら卒業研究にも励みながら、その合間に国家資格取得勉強を強いられる。 臨床医学職業分野とは就職にありつくまでの道程自体が、おそらく理系他分野の比ではなく厳しい。
やっと国家資格取得の道程を乗り越えた後、就職後に待ち構えているのは過重労働の世界…。 その中で人の死をみとり、重病人に寄り添い、日夜を徹して身を捧げる…。 元々体力精神両面に於いて、我が娘がそのようなキャパシティを持ち合わせていないと判断する私は、思い切ってその分野へ進むための“無駄な寄り道”を避けさせようと考えたのである。
さて、原左都子が今回のエッセイを綴るきっかけを与えてくれたのは、やはり朝日新聞「悩みのるつぼ」である。
2月9日の上記欄によれば、20代女性が「介護現場で悩んでいます」とのことだ。
早速、この相談の一部を要約して以下に紹介しよう。
2年前、ヘルパー2級講座を受け実習でも「介護」について学んだ。 ところが、実習先はひどく現場は時間に追われ、職員はイライラし笑顔なんてある場ではない。 「思いやり」などという言葉が何度も講習で出てくるが、現場は「適当」そのもの。 食事も主食副食、薬まで一緒に混ぜて急いで食べさせる現場だ。 最近の仕事の募集は「介護職」ばかりだが、わたしには無理。 それでも思い切って派遣として仕事に出たが、周囲の皆が辞めていく。 一人で過酷な労働に耐える中「思いやり」の気持ちなど持てる訳もない。 勤務先は正職員雇用を求めてくるが、利用者にケガでもされるかと不安でこのまま続ける事が怖い。 辞めずに「適当」にこなせばいいのか?
(以上、朝日新聞「悩みのるつぼ」より一部を要約引用)
今回の「悩みのるつぼ」の回答者は社会学者の 上野千鶴子氏 であられる。
この回答内容が原左都子の脳裏にある考えとほぼ一致するのだが、それを以下に一部を要約して紹介しよう。
多くの介護現場があなたのおっしゃる通りの(悲惨な)現状であることを承知している。 だからこそせっかく志を抱いて資格を得たのに、現場でバーンアウトする介護職員の離職率が低下しないのであろう。 この不況のさなかでも介護労働市場に限っては有効求人倍率が常に1,0以上。 そんな中こんな綱渡りのような勤務を続ければ介護事故が起こるかもしれないし、あなた自身の責任も問われるだろう。 しかもこのまま「適当」に業務を続ければ感覚の麻痺と思考停止に陥るか、バーンアウトするか。あなた自身がお年寄りへの加害者になるかもしれない。 いっそ、派遣という立場を活かして、いくつもの職場にお試し雇用をなさってはいかがか。
介護事業の問題だらけの現実にあなたが責任を負う必要はない。自分の働き易さを第一に優先しましょう。
(以上、「悩みのるつぼ」 上野千鶴子氏の回答の一部を要約引用)
いやはや、原左都子が我が娘にアドバイスしている以上の現実の厳しさを思い知らされる相談内容である。
この相談を読んで考察するのは、パラメディカルの一員である「看護士」とは一職業としてその歴史が長いが故に、今に至っては労働者としての権利をある程度勝ち取って来ているのであろうとの事だ。
それに比して「介護士」資格とは、介護保険が成立すると同時頃に発足した資格ではなかろうか? それ故にその歴史がまだまだ浅く、労働者組合(あるいはそれに代替する組織)も存在せず、職場より不利に使い回されている現状ではないかとの懸念を抱く。
そうだとして、自民党政権の安倍首相に提言したいことがある。
貴方は「アベノミクス」なる経済政策を、政権発足以前よりメディアに大袈裟なまでに宣伝している様子である。 それに対する期待感から「株価上昇」「円安」等の経済指標が貴方に味方するかのごとく変動し続けている事実に関しては私も理解している。
今を時めく介護業界は国家歳入である「介護保険料収入」は元より、「アベノミクス」政策により法人税減税等の恩恵を受け今後更に活気付くことであろう。 それが証拠に外食産業や教育業界、はたまた民間報道企業等々が次々と介護業界へ参入し、私が住む都心部でも介護付き高齢者施設(ケアマンション)が乱立している有様だ。
片や、末端労働者である「介護士」等の権利充実や支援が一体どれ程進んでいるのであろうか?
両者を同時進行で進めて行かないことには、自民党政権の未来もおぼつかないことであろうと私は考察するのだが…
そもそも私自身の職業選択の失敗から、“基本的に自分が好きな事、やりたいと思う事を職業とするべき”との確固たる考えがある原左都子だ。
私が職業選択に於いて如何なる失敗をしたのかに関しては、当エッセイ集バックナンバーにおいて幾度となく述べてきている。 ここで手短に記すと、若気の至りで未だ周囲への反発力が備わっていなかった私は、不覚にも親の意向に沿う道を選択してしまったのである。
「確固たる専門力を身に付けて生涯自立して生きよ」 これが我が親の口癖だった。
我が愚かな親はその考えを未だ高校生の私に強要し続けたのに加えて、大学は地元国立限定、可能ならば理系、国家資格が取れる職業等々… 実に細かい制約の下に進路を決定せざるを得なかった私の行く先は、自ずと限定されていたも同様だ。
ただ当時の私の脳裏には「この職業だけは絶対に避けたい。これを選択したなら私には未来がないも同様」とイメージできる職種があった。 それは「看護士」である。(参考のため、当時は「介護士」なる職業は未だ存在しない時代背景だった) それだけは何がなんでも回避せねばとの思いは強靭で、「看護士」への道程のみは避け通してきた。
結果としては医学方面への進路を選択して地元大学で学業に励み国家資格を取得し、その後上京して民間企業へ就職した私だ。 何故民間企業を選択したのかに関しても、臨床医療現場である「病院」への就職を是が否でも避けたかったからである。(これに関しても、既にバックナンバーに於いて記載済みだが。)
「看護士」「病院」の何がそんなに嫌なのか?
おそらく私が抱くイメージとして、とにかく“暗く”て“地味”。 基本的に派手好きの身としてはそんな場に日々出向く訳には到底いかない。 加えて天邪鬼の私は「人の命を助ける」だの「社会貢献度が高い」だのとの、大それたレッテルを貼られる職種には大いなる違和感を抱かされる。
しかも、たちが悪い事に「看護士」とは過ぎ去りし時代に“白衣の天使”などと美化され語られてきた割には、現実労働の過酷さと言えば世のすべての職業の1、2位を争う厳しい現状であろう。
私事が長引いたが、そんなこんなで我が脳裏には娘の職業選択に際しても、親の立場から是非共アドバイスしておきたいことがあったのだ。
我が子中学生の頃から言い聞かせているのは、「看護士、介護士のみは貴方の職業選択肢から何が何でも外しなさい」
このように表現すると“とんでもない親”との大いなる誤解を生みそうだ。 だが、私自身は病院勤務経験がないものの、パラメディカル分野の専門職として長年従事してきた経歴から、我が娘には医学関係職種への“適性”が一切ないと判断するのが第一の理由である。
(残念ながら「介護士」分野には私は精通していないが)「看護士」に関してはその学業の過程からして大変な時間数を必要とする事を、同じ医学分野の専門資格を取得している我が身に照らして理解している。 過酷な病院実習もこなしつつ、大学生の立場であるなら卒業研究にも励みながら、その合間に国家資格取得勉強を強いられる。 臨床医学職業分野とは就職にありつくまでの道程自体が、おそらく理系他分野の比ではなく厳しい。
やっと国家資格取得の道程を乗り越えた後、就職後に待ち構えているのは過重労働の世界…。 その中で人の死をみとり、重病人に寄り添い、日夜を徹して身を捧げる…。 元々体力精神両面に於いて、我が娘がそのようなキャパシティを持ち合わせていないと判断する私は、思い切ってその分野へ進むための“無駄な寄り道”を避けさせようと考えたのである。
さて、原左都子が今回のエッセイを綴るきっかけを与えてくれたのは、やはり朝日新聞「悩みのるつぼ」である。
2月9日の上記欄によれば、20代女性が「介護現場で悩んでいます」とのことだ。
早速、この相談の一部を要約して以下に紹介しよう。
2年前、ヘルパー2級講座を受け実習でも「介護」について学んだ。 ところが、実習先はひどく現場は時間に追われ、職員はイライラし笑顔なんてある場ではない。 「思いやり」などという言葉が何度も講習で出てくるが、現場は「適当」そのもの。 食事も主食副食、薬まで一緒に混ぜて急いで食べさせる現場だ。 最近の仕事の募集は「介護職」ばかりだが、わたしには無理。 それでも思い切って派遣として仕事に出たが、周囲の皆が辞めていく。 一人で過酷な労働に耐える中「思いやり」の気持ちなど持てる訳もない。 勤務先は正職員雇用を求めてくるが、利用者にケガでもされるかと不安でこのまま続ける事が怖い。 辞めずに「適当」にこなせばいいのか?
(以上、朝日新聞「悩みのるつぼ」より一部を要約引用)
今回の「悩みのるつぼ」の回答者は社会学者の 上野千鶴子氏 であられる。
この回答内容が原左都子の脳裏にある考えとほぼ一致するのだが、それを以下に一部を要約して紹介しよう。
多くの介護現場があなたのおっしゃる通りの(悲惨な)現状であることを承知している。 だからこそせっかく志を抱いて資格を得たのに、現場でバーンアウトする介護職員の離職率が低下しないのであろう。 この不況のさなかでも介護労働市場に限っては有効求人倍率が常に1,0以上。 そんな中こんな綱渡りのような勤務を続ければ介護事故が起こるかもしれないし、あなた自身の責任も問われるだろう。 しかもこのまま「適当」に業務を続ければ感覚の麻痺と思考停止に陥るか、バーンアウトするか。あなた自身がお年寄りへの加害者になるかもしれない。 いっそ、派遣という立場を活かして、いくつもの職場にお試し雇用をなさってはいかがか。
介護事業の問題だらけの現実にあなたが責任を負う必要はない。自分の働き易さを第一に優先しましょう。
(以上、「悩みのるつぼ」 上野千鶴子氏の回答の一部を要約引用)
いやはや、原左都子が我が娘にアドバイスしている以上の現実の厳しさを思い知らされる相談内容である。
この相談を読んで考察するのは、パラメディカルの一員である「看護士」とは一職業としてその歴史が長いが故に、今に至っては労働者としての権利をある程度勝ち取って来ているのであろうとの事だ。
それに比して「介護士」資格とは、介護保険が成立すると同時頃に発足した資格ではなかろうか? それ故にその歴史がまだまだ浅く、労働者組合(あるいはそれに代替する組織)も存在せず、職場より不利に使い回されている現状ではないかとの懸念を抱く。
そうだとして、自民党政権の安倍首相に提言したいことがある。
貴方は「アベノミクス」なる経済政策を、政権発足以前よりメディアに大袈裟なまでに宣伝している様子である。 それに対する期待感から「株価上昇」「円安」等の経済指標が貴方に味方するかのごとく変動し続けている事実に関しては私も理解している。
今を時めく介護業界は国家歳入である「介護保険料収入」は元より、「アベノミクス」政策により法人税減税等の恩恵を受け今後更に活気付くことであろう。 それが証拠に外食産業や教育業界、はたまた民間報道企業等々が次々と介護業界へ参入し、私が住む都心部でも介護付き高齢者施設(ケアマンション)が乱立している有様だ。
片や、末端労働者である「介護士」等の権利充実や支援が一体どれ程進んでいるのであろうか?
両者を同時進行で進めて行かないことには、自民党政権の未来もおぼつかないことであろうと私は考察するのだが…