礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

梅林新市氏は珍しい方言集を発見して紹介した

2019-03-08 03:27:59 | コラムと名言

◎梅林新市氏は珍しい方言集を発見して紹介した

 橘正一著『方言読本』(厚生閣、一九三七)から、「昭和方言学者評伝」を紹介している。本日は、その二二回目で、〔福岡県〕と〔佐賀県〕の項を紹介する。

〔福 岡 県〕
 九州帝大法文学部講師吉町【ヨシマチ】義雄氏は未来のある人である。昭和六年〔一九三一〕二月、熊本放送局の九州方言講座に引張り出されたのが縁で、それ以後、氏の熱心は随処に発揮された。九州方言研究に対する帝国学士院の補助が決定してからは、いよいよ本格的となり、先づ古文献の調査から始められた。その範囲は日本はもとより、支那・朝鮮・西洋の文献に及び、漏らす所が無い。「国語科学講座」に収められた「九州の方言」は、この時代の総決算と言へやう。これは総頁七十八頁の中、記録に三十五頁、文学に十六頁を割いて居るから、当時、吉町氏の主力がこの方面に注がれて居た事がわかる。その後の吉町氏は、音韻・語法の分布調査に主力を注ぎ、調査用紙を配布すること千八百通、内六百通の回答を見た。語法としては庭い回答率である。この方は多くは未発表なので、今後の発表に期待する。昭和十年〔一九三五〕五月には、九州方言資料展覧会を九州帝大に開いて、個人として良くこれだけ集めたと驚嘆された。吉町氏の研究題目は九州全体にあるが、住居の関係上、便宜上ここに入れる事とした。
 梅林新市〈ウメバヤシ・シンイチ〉氏は、土俗や玩具の研究から方言研究に入り、多くの珍しい方言集を発見して、之を複刻、学界に紹介した功績は大きいが、氏自身の採集に成る、「福岡地方方言集」「福岡築上〈チクジョウ〉郡東吉富〈ヒガシヨシトミ〉方言集」が、何れも、未完のまま久しく打棄てられてあるのは遺憾である。
 著書の多い事で有名な福岡高校教授、安田喜代門【キヨモン】氏には、「こけ猿」以来、二三の方言研究論文が発表されてあるが、なほ未発表のものに、福岡県内各郡高齢者の談話を筆記したものがある。
 福岡県には、この外、岡村利一氏、田邊敏夫氏、野村一彦氏等がある。黒岩万次郎氏は明治期の方言研究者であるが、近頃、幕末時代の筑後方言集「はまおき」を複刻して、昔の情熱を失はぬ事を示した。
〔佐 賀 県〕
 佐賀県は暗黒である。昭和になつてからは僅に、国学院大学の「方言誌」第十四輯に、吉村一男・小田寛次郎・原善武三氏の報告があるのを見るのみである。東條〔操〕さんの「刊行方言書目解題」には、「肥前千千石町〈ちヂワチョウ〉方言誌」を佐賀県の部に収めてあるが、千千石は長崎県である。
 
 梅林新市は、俳優の米倉斉加年(よねくら・まさかね)さんが小学生だった時の恩師だったという。米倉さんは、その著『いま、普通に生きる』(新日本出版社、二〇〇六)に、梅林先生の思い出を書いている。

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