礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

淡路島全町村を自転車で走る田中万兵衛氏

2019-03-02 00:57:45 | コラムと名言

◎淡路島全町村を自転車で走る田中万兵衛氏

 橘正一著『方言読本』(厚生閣、一九三七)から、「昭和方言学者評伝」を紹介している。本日は、その一六回目で、〔兵庫県〕と〔鳥取県〕の項を紹介する。

〔兵 庫 県〕
 兵庫県は研究者がかなり多い。「但馬方言」の著者中島貞一郎氏、「播州小河【オーゴ】の方言」の著者高田十郎氏、「淡路方言資料」の著者玉岡松一郎氏、「兵庫県方言集成」の著者河本正義氏、「国語教育と方言研究」の著者岡田荘之輔氏、「淡路方言研究」の著者田中万兵衛氏、「児童文章語に於ける標準語界設定と標準語指導」の著者丸岡藤二氏、「兵庫県佐用郡方言之研究」の著者本間齊氏、「赤穂言葉の研究」の著者中谷竹蔵氏等をあげる事が出来る。「淡路方言研究」の著者田中氏は、明治三十八年〔一九〇五〕頃の「淡路方言集」の著者と同じ人であるといふ。私はこれを聞いて、かつ喜びかつ悲しんだ。喜んだのは外でもない。埋み火が久しい時を経て尚燃え上る力を失はない様に、方言に対する若き日の情熱が三十年を経て再び力強く燃え上つたことを喜んだのである。悲しんだのは外でもない。三十年の久しい間、一人の田中氏を除いては、淡路方言を研究しようとする淡路人が無かつた事を悲しんだのである。田中氏の熱心は恐ろしい。淡路方言の出典を明にするために、あの浩瀚な「大日本国語辞典」全四巻を通読したといふ。驚きはこれのみではない。淡路島五十余ケ町村の方言分布を明にするために、六十歳の老躯をひつさげて、自ら自転車で走り廻るつもりであると言ふ。
 玉岡氏は郷里播磨だけに止まらず、淡路・但馬・丹後・志摩と広く各地に採集の手を延ばして居るから、この努力を今後数年継続するならば、近畿方言学界の重鎮となるであらう。
〔鳥 取 県〕
 鳥取県は振はない。わづかに、岩田勝市・生田弥範・岸本弥三郎・近藤喜博の四氏を数へるのみである。このうち、生田氏には将来の発展性が豊富である様に思はれる。何故なら、方言分布に着眼して居るからである。

*このブログの人気記事 2019・3・2

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする