礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

島根県では石田春昭氏がピカ一である

2019-03-03 01:26:55 | コラムと名言

◎島根県では石田春昭氏がピカ一である

 橘正一著『方言読本』(厚生閣、一九三七)から、「昭和方言学者評伝」を紹介している。本日は、その一七回目で、〔島根県〕の項を紹介する。

〔島 根 県〕
 島根県では、石田春昭氏がピカ一である。同氏には既に「石見〈イワミ〉山間部方言」「島根県に於ける方言の分布」「隠岐島〈オキノシマ〉方言の研究」の著がある。単に量的に多いばかりでなく、内容も亦群を抜くものである。特に、隠岐の島の方言的地位を明にし、東條さんの方言区画説に修正を要求した事は大きな貢献である。又、古代出雲の地名や神名の書記法を研究し、之を現代の訛音〈カオン〉と照し合せて、出雲の訛音は神代に溯る事を主張したのも注目すべき新説である。又、方言分布を研究するのに統計法を利用したのも同氏の創意に出るものである。すでに、昭和二年〔一九二七〕の夏休に生徒に方言の蒐集を宿題として課した事があるといふから、先覚者的地位を占める人である。
 横地満治氏の「隠岐島の昔話と方言」は、昔話を記すに方言を以てしたものであるが、石田氏の「隠岐島方言の研究」の資料となつた程、語学的に正確なものである。
 又、岡義重氏の「出雲方言化せる尋常小学国語読本」は、この方面では最初の試みとして注意すべきものである。
 後藤蔵四郎氏は、明治四十一年〔一九〇八〕に「島根県私立教育会雑誌」に出雲方言について書き、大正五年〔一九一六〕にそれを増補して単行本とし、昭和二年、更に、それを増訂して「出雲方言考」と題して出版した。かやうに、二十年の久しきに亘つて、方言研究に執心して倦まないのは稀有の例であり、物に熱し易く、さめ易い日本人の短所を完全に克服した人である。
 この外、出雲には「国語教育の基礎としての大原地方方言考」の著者佐藤慎吉氏や「出雲方言小考」の著者錦織柳蔵氏があり、石見には「島根県鹿足〈カノアシ〉郡方言の調査研究」の篠原實氏がある。加藤義成氏には単行本は無いが、その出雲方言の音韻・語法の研究は優れたものである。千代延【ちよのぶ】尚壽氏は分布調査に熱心であるが、その資料が自己の採集でないのは惜しい。
 大原孝道氏は何処の生れであるか知らないが、アクセントの性質を初めて明にした人として、この県で説く。大原氏は、東京文理科大学在学中、東京文理科大学方言研究会の名に於て、アクセントの調査を企て、昭和六年〔一九三一〕七月、全国の師範学校にアクセント調査を依頼した。これは服部〔四郎〕氏の調査とは独立になされたものであつたが、その結果は服部氏の結論と一致し、しかも服部氏の及ばなかつた点まで明にする事に成功した。その結論を箇条書にすれば、次の様になる。
(一)四国のアクセントは近畿のそれと同系である。
(二)中国のアクセントは、近畿や四国のそれと異り、九州の東北部や揖斐川以東(大垣市以東)のそれと同系である。
(三)出雲アクセントは、大きい目で見れば中国アクセントに属するが、中国一般とは違つた特色を有し、別に一区域を成す。
(四)近畿アクセントと中国アクセントの境界線は但馬朝来〈アサゴ〉郡山口村を通る。

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