◎『土の香』の加賀治雄氏は元小学校訓導
以前から、『土の香』という雑誌が気になっている。そこに載っている論文や記事には、興味深いものが多い。その一部を、批評社の「歴史民俗学資料叢書」に紹介したこともある。
しかし、『土の香』についても、その発行編輯人であった加賀治雄についても、あまり詳しくない。
先日、たまたま、『土の香』の「壱百号紀念号」(一九三六年八月)を手にする機会があった。すると、その末尾に、加賀紫水署名の「回顧録」という記事があった。「紫水」は、加賀治雄の雅号である。知らなかったことが多く、たいへん勉強になった。本日は、これを紹介してみよう。
回 顧 録 加 賀 紫 水
最初に会員並に先輩諸兄姉に御指導御後援に感謝の意を表します。この愛子「土の香」を創刊八ケ年壱百号に育てる迄の苦心を回顧するのは感慨無量であります。
本誌発行の動機は其頃私は小学校訓導の末席を汚し敬神の一助と致度く全国官国幣社の御印影を蒐集中、神社の御祭神、御由緒、古典、交通其他の調査をなし、これを知友諸氏に頒布せんとし「国の礎」と題し六輯(五百頁)発行しました。各地の方々ょり伝説其他民俗的有益なる御報告を賜つたので各輯附録として発表致し大高評を博し、毎月引続き何か民俗雑誌を発行せよとの御希望が沢山ありましたので、意を決し昭和三年〔一九二八〕四月第一号の発行を見ることが出来ました。
「註」 本稿は土俗方言各方面に詳記しました処、方言方面は橘正一氏より別項の通り御寄稿を賜つたので急に再び書直し土俗方面のみに致しました不悪〈アシカラズ〉、各御寄稿家諸氏が本誌の為め貴重なる研究論文を常に御恵稿賜り各号増頁にて奉仕致して居りますが、今各号の主なるものを挙げますと
第一巻第一号には故島村知章氏の「岡山附近の齋の神」森徳一郎氏の「田県〈タガタ〉神社祭神は若寡婦大麻雑人影は建稲程命」其他二編で十六頁の貧弱なものであり。尾張三奇祭(国府宮〈コウノミヤ〉の儺追〈ナオイ〉祭、尾張富士の石釣祭)の話、白鳳荘主人の「性的神巡礼回顧」愚生〔加賀治雄〕の「猿投〈サナゲ〉史蹟視察旅行記」森徳一郎氏の「切支丹焼殺と水浴地蔵」「尾張切支丹年表」等発表
第 二 巻
近年仏法僧で有名になつた香雅好楽氏の「鳳来寺田楽研究」稲垣豆人氏の「尾張三河性的神見聞録」梅谷紫翠氏の「大阪小絵馬漫談」編輯部編の「尾張三奇祭田県神社男根祭」森青雨氏の「尾張名物宮重大根〈ミヤシゲダイコン〉由来」石田元季氏の「コサの考」佐藤一二氏の「津島名物あかだ考」等
第 三 巻
鈴木重光氏「相州内郷村附近の道祖神巡り」高村知章氏「岡山地方古俗断片」箸に関する俗信として、鈴木重光氏の「相州津久井地方の俗信」菱川好調氏の「箸についての各地方の俗信」太田清氏の「尾張脊掛の十三塚」岡崎趣味会編「御茶壷の御通り」五日会編「世界一の三河大提灯祭」市橋鐸氏「山姥物語」橘正一氏「岩手県飯岡村〈イイオカムラ〉俗信集」等【以下、次回】