礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

英訳によって盗作された村林孫四郎の「鹿児島語法」

2019-03-12 01:49:19 | コラムと名言

◎英訳によって盗作された村林孫四郎の「鹿児島語法」

 この間、橘正一著『方言読本』(厚生閣、一九三七)の巻末にある「昭和方言学者評伝」を紹介してきた。本日で、すでに二五回目となる。余すところ、〔鹿児島県〕、〔奄美諸島〕、および〔沖縄県〕の三項のみとなった。
 本日は、〔鹿児島県〕と〔奄美諸島〕の項を紹介する。

〔鹿児島県〕
 「鹿児島語法」の著者村林孫四郎氏は、明治方言学から昭和方言学まで三十年間を、方言に生続けて来た稀有なる一人である。氏は長崎県大村の生れである。その鹿児島に移り住んだのは明治方言学華かなりし三十七年〔一九〇四〕の末であつた。直ちに鹿児島方言の研究に着手し、四十一年〔一九〇八〕七月には草稿が出来上つたので、之を鹿児島新聞紙上に連載し,同年十月には之を一纏めにして単行本とした。その後も研究を怠らず、昭和四年〔一九二九〕には、訂正の上郷土研究社から再版に附した。初版の出た当時、ある西洋人は之を読み、之を英訳して、「薩摩方言の研究」と題して、「亜細亜協会々報」に自己の名で発表した。これを読んだ日本人の某博士は、その研究の深さに驚き、「せめて日本人にこの半分だけの研究もあればよいが、それもない」と激賞した。種本の著者が之を聞いたら、苦笑しながら、「せめて西洋人にこの半分だけの研究もあればよいが、それもない」と言つたであらう。
 この外、鹿児島県には、「南方薩摩方言集」の著者福里栄三氏、「鹿児島県児島郡谷山町方言集」の著者山下光秋氏、「鹿児島方言辞典」の著者嶋戸貞良氏等がある。原田芳起氏、上畝勝氏、野村伝四氏、井上一男氏には未だ単行本は無いが、逸する事の出来ない人人である。山下邦雄氏の卒業論文(日本大学)は鹿児島方言の敬語に関するものであつた。「方言と国文学」といふ雑誌を出して居た事もある。平山輝男氏が全九州のアクセント調査を企て、着々として、好成績を収めて居る事も記すべきである。
〔奄美諸島〕
 奄美諸島の言語は沖縄語と同系であるが、これの研究者は案外少ない。単行本では、僅に、北村力馬氏の「奄美大島語案内」安藤佳翠氏の「南島方言えらぶ語の研究」大島中学校の「奄美大島方言と土俗」第一冊があるだけである。岩倉市郎氏の「喜界ケ島〈キカイガシマ〉方言集」が出たら、最大最良のものとなるであらうが、まだ公刊されないのは遺憾である。

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