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随筆紹介  「夏」    文科系

2016年12月07日 07時07分30秒 | 文芸作品
 夏  H・Tさんの作品です

 私は岐阜県の小さな村で産まれ育った。夏半ばまでうぐいすが裏山で鳴き、夜は蛍が蚊帳の中。前の田んぼではいつもかえるが鳴いているという夏だった。
 窓は開けっぱなし、涼しい風がいっぱい。梅雨が開けて夏になると、母は部屋中いっぱいに着物を拡げて、虫干し。その間を走り回って叱られたことも。そう言えば″梅雨開け十日″という晴天続きの日もあった。
 むし暑い夏の日には、決まったようにやって来た気っぷのよい夕立。さっと涼しくなって、私は雷や夕立が大好きだった。名古屋に住んで、雷や夕立が大きらいという人に出会って驚いたもの。そう言えば、子どもの頃に出会ったような雷や夕立には、このごろ出会えない。ふる里の夕立も変わったかしら。梅雨開けも定かではなく、暑い暑い夏。猛暑ということばも飛び出している日々。
 あの田んぼの上を通ってきたさわやかな風は……。ふる里の家々にも冷房機が音を立てている。

 数年前の夏の日、カイロの遺跡を訪ねた。案内してくれたK青年の日本語はすばらしく、流ちょうな説明と案内。私が日本語のうまさをほめると、「僕はカイロ大学で日本語を学びました。そして方丈記に出会い、日本の古典に感動しました」と言って、方丈記について話し出した。私の方丈記の知識はテストのための暗記だけしかない。
 でも、聞いていてどうも落ち着かない。これは日本人同士でもあること。違いがあっても「あっ、そうか」と自分の考えを正すことも、意見を言い合いわかり合うことも出来る。けれどもK青年の方丈記はどうも違う。確かに古典は日本の風土の中で書かれたもの、日本人にしか分からないという人もいて、そういう考えに反発してきた私なのだが。K青年の方丈記から話題を変えようと、近くに咲いているキョウチクトウの赤い花を指さして言った。
「この花の名はエジプトでは?」
「エジプトでは、花は花。木は木であって、名前はありません。この花は一年中咲いています」
 花も木も一律にそう呼ばれているのか、いぶかっていた。そう言えば、カイロを流れている川の水も澱んで、黄土色。流れているのが分からないくらいで、ゆったりとした川面。大きな観光船ものんびりと浮かんでいる。
 方丈記を教えてくれた師もK青年も、日本へは行ったことがないとのこと。それを聞いた私は、落ち着けない理由が分かったような気がした。

 日本の夏も、大きく変わった。夕立も、台風も、雨さえも大変化。今年も、驚くこと多しの暑い暑い夏であった。


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-12-07 19:21:35
極端な季節感の無さは、アスペちゃんの、判断基準の一つだけとね。
これが、中学生とかなら、一度診断を受けてみたら?て、言うけど、もう、老い先短いし。
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Unknown (Unknown)
2016-12-07 18:12:28
内容はともかく・・
今年ももう師走で、冷え込む日が増えて・・
そんなタイミングで、これ出してくるあたりが、
流石は文ちゃん。
リアルで、彼と面と向かっている人、大変だろうな。
返信する

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