食料不足時に増産指示へ 政府、新法など閣議決定 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
「気候変動や紛争、世界の人口増加などで食料供給が不安定となるリスクが高まるなか、政府は増産指示や財政支援・罰則を通じて食料安全保障を確保する新たな仕組みを整える。農政の基本指針を定めた「食料・農業・農村基本法」の改正案と「食料供給困難事態対策法」と名づけた新法案を27日に閣議決定した。
基本法は「農政の憲法」とも呼び、1999年の制定以来初の改正となる。日本の食料自給率は2022年度にカロリーベースで38%にとどまり、主要7カ国(G7)の中で最も低い。とくに小麦や大豆といった穀物の低さが目立つ。
異常気象に伴う不作やロシアによるウクライナ侵攻などを受け、食料、肥料、飼料の安定確保への危機感が高まり、法改正と新法制定が必要と判断した。坂本哲志農相は27日の記者会見で、日本の食料事情に関して「これまでのように自由に買いつけができなくなってきた」との考えを示した。
新法では、政府があらかじめ重要だと位置づける食料や必要物資を指定する。コメ、小麦、大豆に加え、肥料や飼料も念頭に置く。世界的な不作などでこれらの食料の供給が大きく不足する兆候を確認した段階で、政府は首相をトップとする本部を立ち上げる。
本部には全閣僚が参加し、確保をめざす品目や供給目標を盛り込んだ実施方針をまとめる。買い占めや価格高騰を防ぐため、商社やメーカーなどに計画的な出荷調整や輸入拡大を要請する。農林水産品の生産者にも増産を求める。これらの要請に応じるために必要な場合は、政府が補助金を出す。
事態が悪化して、供給量が2割以上減ったり、実際に価格高騰に至ったりした場合に政府本部が「困難事態」を宣言する。宣言を受け、政府は生産者や事業者に食料の確保に向けた計画の策定を指示する。計画を届け出なければ、20万円以下の罰金を科すことを新法案に盛り込んだ。
それでも供給が不安定で、さらなる生産や輸入拡大が必要だと政府が判断した場合、計画の変更指示も可能とする。政府からの変更指示に応じれば、追加で財政支援もする。政府の資金拠出は各年度の予備費で対応を検討する。
事態がさらに深刻さを増し、最低限必要な食料の確保が困難となれば、政府がコメやサツマイモといった熱量が高い品目への生産転換を要請・指示する。1人あたりの1日の供給熱量が1900キロカロリーを下回る恐れが生じた場合を想定している。
新法案には平時の対応も定めた。不測の事態に備えて政府が指定した食料や必要物資について生産者や事業者、各種団体などに報告を求め、需給状況の把握につなげる。基本法の改正案にも平時から食料自給率などの目標を設定し、達成状況を年1回公表すると盛り込んだ。
欧州を中心に海外では食料安保のリスクに対応する法整備が進む。ドイツは17年に制定した「食料確保準備法」で戦争や自然災害などで生存に必要な食料を確保できない状況を「供給危機」と位置づける。国が価格決定や食料配給などを命じる。
英国は20年に「英国農業法」をつくった。食料品の価格高騰などで農業市場に混乱が生じた場合、担当閣僚が「不測事態宣言」を発出できる。生産者の収入悪化を財政支援する。
日本は農林水産省が12年に策定した「緊急事態食料安全保障指針」で食料危機時の政府の対応策を記している。法的拘束力がなく、実効性を担保できていなかった。三菱総合研究所の稲垣公雄・食農分野担当本部長は「財政支出を増やせない制約のなかで豊かな食を維持し続けることが重要だ」と指摘する。」
「食料・農業・農村基本法」改正案 閣議決定 食料安全保障強化 | NHK | 食料安全保障
「ロシアによるウクライナ侵攻や気候変動などを背景に、食料安全保障を強化するため、政府は、“農政の憲法”とされる「食料・農業・農村基本法」の改正案や関連法案を27日の閣議で決定しました。
政府は、農業政策の基本方針を定めた、「食料・農業・農村基本法」の改正案と、関連する2つの法案を27日の閣議で決定しました。
このうち基本法の改正案では、法律の基本理念に、「食料安全保障の確保」を新たに加えたうえで、農産物や農業資材の安定的な輸入を図るほか、農業法人の経営基盤の強化やスマート技術を活用した生産性の向上に取り組んでいくとしています。
また、食料不足への対応を盛り込んだ新たな法案では、政府が、食料がひっ迫する事態を未然に防ぐ必要があると判断した場合、内閣総理大臣をトップとする対策本部を設置し、コメや小麦、大豆など重要な品目や関連する資材の確保すべき数量を設定したり、生産者に生産の拡大を要請したりできるとしています。
さらに事態の解消が困難な場合は、事業者に、生産や出荷に関する計画の提出や変更を指示できるとし、計画を提出しない事業者には、20万円以下の罰金を科すなどとしています。
これらの法案について政府は、今の通常国会での成立を目指す方針です。
「食料・農業・農村基本法」の改正案などが27日の閣議で決定されたことについて、坂本農林水産大臣は閣議のあとの会見で、「気候変動による異常気象や、アジアやアフリカの人口増加などを背景に食料需要が増加し、これまでのように自由に買い付けができなくなってきた。さらに各地の紛争や新型コロナによる物流の混乱など、貿易が不安定になる事象も生じている。今回の改正は、こうした情勢の変化を踏まえ、およそ1年半をかけて検討を行ってきたもので一日も早い法案成立を目指して尽力していく」と述べました。」