官民ファンドの1つ、「産業革新投資機構」(JIC)、トップの高額報酬に絡み、所管する経済産業省との間で内紛が表面化。両者の確執は解消しそうになく、産業革新革新機構では田中正明社長をはじめ、民間出身の取締役全員が辞任する見込みだ。という報道だが、本質は高額報酬でなく、事業のやり方で齟齬を来したという理解が正しい。
「産業革新投資機構」の前身2009年に設立された産業革新機構は、2016年度末までに114件の支援を手がけ、1兆2483億円の利益を上げた。ただ、その利益は、半導体大手のルネサスエレクトロニクスの株式の含み益が多くを占めるとみられる。他方、当初のもくろみだったベンチャー投資では、多くの案件で収益の回収に苦しんでる。そこで、世界で活躍する強力な助っ人をスカウトして革新機構の間に「投資」を入れたのがみそだった。
「産業革新投資機構」は民間ファンドだけではできないリスクテイク機能を果たすべく、民間とともに政府からも出資し、中長期のリスクマネー、すなわちエクイティー投資の出し手となり、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)バイオなど革新的な分野に投資して新規事業を創造したり、「ユニコーン」と呼ばれる企業価値の高い非上場企業にも資金を供給することが目的だ。米国経験の長い田中社長を招き、シリコンバレーでの分析から事業内容毎に子ファンドを設け、即効性と自由度を持たせるやり方を採るもくろみだった。取締には各分野の一騎当千の専門家を集めた。田中社長は記者会見で、報酬は1円でも結構だ。子ファンドを設けるやり方に経産省の横やりが入った以上事業は不可能と辞任の弁。
経産省は不透明性が問題と指摘した子ファンドの問題、大株主だから全てに認可を求めたいという役人根性が災いした。前身の「産業革新機構」のように傾き掛けた企業を日本にとって潰せないとして、ルネサスを救済した役割ぐらいは従来の経産省がふさわしかったが、ベンチャー投資で苦戦したので「産業革新投資機構」に作り替えたわけだ。しかし日本の官の歴史的な行動からすると「ユニコーン」を生み出すことは不可能だ。